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珈琲男子

また日が空いてしまった…そろそろまともな週一に戻れるはず……!

「あ、俺、珈琲で」
 メニューを片手にさも当たり前のように手を挙げて、俺たちの席を通り過ぎようとしたウエイトレスさんにそう注文する。それに一瞬唖然としながらも、俺も急いで「じゃあ俺はメロンソーダで」とアツシに続いた。かしこまりました、と事務的に頷いて厨房に向かう栗色のポニーテールを横目に、俺は目の前でドヤ顔をしている友人に尋ねた。
「アツシって珈琲飲めたっけ?」
「当たり前だろ、もうガキじゃねえんだ、ジュースなんか頼まねえだろ」
「俺はメロンソーダの方が好きだけどな」
「オコサマだな、スグルは。だから後輩にもフラれんだよ」
 先日負った傷を軽く抉られ、思わずこめかみに皺が寄る。
「誰とも付き合ったことのないアツシに言われたくない」
「別にいーだろ。高校生になりゃ彼女の一人や二人できるだろ、多分」
「そりゃ随分間抜けな楽観的思考だな。一年後に彼女なんて都市伝説って喚くアツシの姿が見える」
「減らず口め、珈琲も飲めないくせに」
「珈琲は飲めなくても生きていけるからな」
 互いに互いの傷に軽く拳を押し当てると、どちらかともなく笑った。
 恋愛経験の浅いアツシと、珈琲が未だに飲めない俺。小学校の頃からの付き合いでこんな風に応対できるのはアツシだけだ。できるなら、この先もずっとこうであって欲しいと密かに願っているが、どうだろう。高校はそれぞれ違うところを受験する予定で、目指す着地点も違う。新しい環境で互いよりも気の合う仲間ができれば、自然とそちらとの関係を充実させるために動いて行くだろう。
「ん? どうした、スグル。変な顔して」
 笑い顔を収めてアツシがきょとんと首を傾げる。
 いずれ離れてく未来など想像もしてません、って顔のアツシに、俺は浮かんだ苦い気持ちを押し込みながら無理矢理笑った。
「いや、別に」
「何だよ、そんなにあの後輩にフラれたことがきつかったのか?」
「いや、もうそれは仕方ないことだって諦めたから。彼氏がいるんじゃ、どうにもできないし」
「そこで諦めんなよ、むしろ奪い取るくらいの熱意を持って当たっとけよ」
「恋愛経験のないアツシに言われても説得力ないなあ」
「なにぃ」
 と、再び明るい空気を醸し出した俺たちの間に入り込んだポニーテールのウエイトレスが事務的に「お待たせしました」とアツシの前に香ばしい香りを放つ白い珈琲カップを置き、俺の前には細長いグラスに入ったメロンソーダを置いた。
「やーい、お子様」
「別にいいよ。メロンソーダ好きだし」
 アツシの軽口を躱しつつ、透明なストローでメロンソーダを味わう。しゅわしゅわと口の中ではじける炭酸といかにも作り物のメロンの味がたまらない。それにどこか懐かしい味がする。アツシ以外の小学校の頃の友達と遊んだこととか、初恋の子のこととか、そういうのが炭酸と一緒にぽんぽん現れる。そういう懐かしさを与えてくれるから、子供の頃と同じく、メロンソーダが好きなのだ。
 一方、アツシに目を向けると、あれほど注文時にドヤ顔をしていた奴とは思えないくらい渋い顔でカップに口をつけている。ぎゅっと寄せられた太い眉が、珈琲の独特の苦みに耐えるように震えている。
「なあ、お前、ほんとは珈琲嫌いだろ」
 飲めると言っていただけで、別に好きとは言ってなかったし。
 アツシはそんな俺の言葉に下がり気味だった眉をぎゅっと上げて、こくん、と喉を鳴らした。
「お子様のお前には分からないだろうがな、この苦みがいいんだ」
 若干語尾は震えているが、その吐息から香る珈琲の独特の香りと必死に大人びようとする態度が少しだけ眩しく感じられて、俺は思わず苦く笑った。
「そっか。すげえな、アツシは」
「だろ?」
「けどさ、砂糖は入れた方が美味いと思うぜ」
 さり気なく横にあった小降りのシュガーポッドを奴の前に置くと、一瞬難しい顔をしたものの、すぐに照れくさそうに笑った。
「そんな急いで大人にならなくてもいいだろ」
 

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