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ハナシノブ

※男性同士の恋愛要素がささやかながらも含みます。登場する「先輩」は「見送る君に」(創作BL)と同一人物です。
ハナシノブ

 やっぱり、来るんじゃなかった。
 自由交流を趣旨としたイベントサークルの新入生歓迎会、略して新歓が始まって十五分で僕は早々に後悔していた。
 周囲は既にたった十五分で形成された各々のグループに固まっており、僕のようにグループ形成中に参加が叶わなかった「アブレモノ」は僕と同じく人影にこっそりその身を潜めて黙々と目の前のジャンキーな食べ物に舌鼓を打っている。僕もさっきから普段食べていないからという理由だけで取ったピザを齧っているんだけど、そろそろ飽きてきた。というか、もう少し軽いものはないかな。甘いのも辛いのもあまり得意じゃないし、こってりしたものはもうこりごりだ。
 ……って、タダ飯を食べるために来たわけじゃないのに、僕は何してるんだ。
 ちらり、と僕の目の前で盛り上がる女子二人、男子三人のグループの下品な話題に微かに眉を寄せつつ、何とか理由を付けてこの場から脱出することを頭の中で計画立てていると。
「隣、いいかな」
「へっ?!」
 唐突に左側から掛かった声にびくりと身を竦ませた僕に、下品話題で盛り上がっていた目の前のグループも何事だと言わんばかりにこちらを見た。うわ、見ないでくれ、勝手にそっちはそっちで盛り上がれよ、畜生。
「……駄目かな?」
「あっ…………いえ」
「良かった」
 にこりと笑って僕の隣にやってきたのは、びっくりするくらいの美人だった。
 あ、美人と言っても、男、だけど……男に美人って表現、普通はしないはずなんだが、この人に限っては使ってもいいと思うくらいだ。日本人、なんだけど、こう清潔感があるっていうか、パーツの一つ一つが人形みたいによく出来ている。
 思わず凝視する僕に、彼……多分、先輩……がおもむろに僕に淡い茶色の飲み物入りのグラスを差し出した。
「アイスティー。ここのは特に美味しいんだ」
「あ……ども……」
「それからピザなら、あっちのマルゲリータがいいかな。飽きたら野菜スティックも美味しいよ」
 さっき僕が考えていたことだ。ひょっとして、察して来てくれたんだろうか。こんな美人な先輩に見つめられていたのだと思うと、変な汗が出る。女の子じゃなくて、男の先輩だけど……。
 おずおずとグラスを受け取った僕を満足げに見つめた先輩は、そのまま何事もなかったように自分用のグラスを傾ける。気がつけば目の前のグループは移動していた。美人な先輩を前に下品な話を続行する気をなくしたのだろうか、何にせよ、もう聞かされずに済むから嬉しいけれど。
 こくり、と一口飲む。確かに変な苦みもないし、カラオケ屋で出されるみたいな水っぽい味でもない、品のあるアイスティーだ。さっきまで飲んでいた甘ったるいジンジャエールよりずっと美味しい。
「……」
「……」
「……あの」
 さっきまで気になっていたはずの周囲のざわつきよりも、先輩との間に流れる何とも言えない空気の方が気になってしまって、つい呼びかけてしまった。大して話題があるわけじゃないんだけど……。
「どうしたの?」
「えっと……」
 ヤバい、本当に話題が見つからない。
 アイスティーを揺らしながら考え込む僕に、先輩がくすりと笑った。
「平井、美樹(よしき)」
「えっ」
「二年の平井美樹。僕の名前。よしきはみき、とも読めるから女の子みたいだってよく言われるんだけどね」
 肩を竦めて苦笑する平井先輩。あ、もしかしてまた僕を気遣ってくれたんだろうか……。
「……あ、井上、です……井上イヅル……」
「井上くん、か。よろしくね」
 すっと自然に綺麗なその手を差し出され、僕はますます緊張した。
 さっきまで感じていたこの場からすぐさま消え去りたいと言う思いとは別の意味で消えたい。
 けど、先輩は待っている。早く、手を差し出さないと。ただ握手するだけじゃないか。
 そう言い聞かせ、ごくんと唾を飲み込んで自分のじわりと汗ばんだ手をその手に絡ませた。
「よろしく、お、お願いします……」
「そんなに緊張しないで。僕は別に君をとって食おうとしているわけじゃないから」
「い、いや、そんな風に思ってるわけじゃ……」
「気にしないで。僕と初めて話をすると、随分緊張するって友人にもよく言われるんだ」
 僕って怖いオーラでも出てるのかな、と首を傾げる平井先輩。
 いや、怖いオーラじゃなくてむしろ綺麗過ぎるオーラに緊張するんだと思う。同性としてだけでなく、何て言うか、人間としても別格な気がするし……。
「……せ、先輩はその……コワイとは思いませんよ」
「そう?」
 微笑むその柔らかな眼差しにどぎまぎしながら、僕はかくかくと小さく首を振った。
「はい……先輩はその……き、キレーだから……き、緊張するのかもしれない、です……」
「綺麗?」
「……す、すみません! へ、変な意味とかじゃなくて、その、上手い言い方が見つからなくて……すみません」
 やっぱり幾ら美人でも男に「綺麗」はないだろう、とますます変な汗をかいて挙動不審になる僕を、先輩が不思議そうに見つめる。変な後輩だと思われたかな。
 せっかく声をかけてくれたのに。
 すみません、と再度口に出そうとした僕の声を、先輩の言葉が遮った。
「……偶然、かな」
「えっ」
「君の他にもね、同じ事を言ってくれた子がいたんだ。先輩は綺麗だって」
 そう語る先輩の横顔は、何故だかとても嬉しそうだった。
 その笑みを見た途端、心臓をぎゅっと掴まれて激しく揺さぶられたような衝撃を受ける。
「ありがとう。何だか、とても嬉しい気分だ」
「い、いえ……」
「井上くんも、とても優しい人なんだね」
 優しい人……? 先輩のその言葉に違和感を覚えて首を傾げたけれど、先輩は淡く微笑んでアイスティーを啜っただけだった。グラスから離れた唇がほぅ、と吐息を漏らす。
「これは僕の勝手な推測だけれど、井上くんはまだ大学に馴染んでいなくて焦っている感じなのかな?」
「あ、えっと……そう、ですね」
 いきなり図星を突かれて、思わず声のトーンが下がる。
 そんな僕の変化に先輩はうんうんと頷いて、
「このサークルは僕の友人の主催しているものだから、その参加者である君に誘いをかけるのはどうかなって思ったんだけど……君さえ良ければ、うちのサークルに来てみないか?」
「へっ……先輩のサークル、ですか?」
「うん。実は僕が主催しているんだ。ここみたいに目立たないサークルだから、未だに新入生が来てくれなくてね。ちなみに文学サークルなんだけど」
 でも全然硬くない、緩いサークルだよと先輩が苦笑する。
「よく勘違いされるんだけどね、僕たちはただ本を読むのが好きなだけなんだ。本を読むついでに交流できたら楽しいかなって思っているだけで」
「本を読むサークル……ですか」
「やっぱり興味、ないかな?」
 少しだけ自信なさそうに眉を下げる先輩に、僕は勢いよく首を振った。
「い、いえっ……そ、その、僕で良ければ……!」
「無理しなくてもいいだよ?」
「いえ、全然無理なんかしてないですっ、その、僕も読書は好きですから」
 嘘だ、本当は本を開くと二ページも読まないうちに眠くなってしまう質だから。
 だけど、読書が好きと嘘を吐いたお陰で、先輩のあの嬉しそうな顔をまた見ることができた。
「本当? 嬉しいなあ、よろしくね、井上くん」
「は、はいっ……こちらこそっ」
 上擦って多分変な顔をしている僕に、先輩は優しく頷いた。

「……僕は、君を待っていたのかもしれないな」
「えっ」
「ううん、何でも無いよ」
 先輩の言葉は聞き取れなかったけれど、その声音がやけにほろ苦さを含んでいたのは何となく感じていた。
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