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見送られる貴方へ

※本作は女性同士の恋愛要素を含んでいます。卒業の百合バージョン
見送られる貴方へ

「月宮さん、お待たせ」
 いつもは落ち着いた声音を微かに弾ませてやってきた彼女に、私は震えるような思いをぎゅっと胸に抱きしめながらゆっくりと振り返る。
 桜色の花弁をその綺麗な三つ編みにつけた先輩は薄い胸を軽く上下に動かしながら小さく手を合わせる。
「ごめんなさい、友達がなかなか解放してくれなくって……待ったでしょう?」
「いいえ、大丈夫です。会長は人気者ですし」
「月宮さん、私はもう生徒会長じゃないわ。この前正式に引き継ぎしたでしょう?」
「……そうでした、春野先輩」
 よろしい、と春野先輩が満足げに微笑む。ただ微笑むだけでも絵になる先輩。この笑顔を見るのもこれで最後だと思うと、抱えた思いがしくしく痛む。
「月宮さんとこうして会うのも最後なのね」
 先輩も私と同じ事を思ったらしい。呟かれた言葉が私の気持ちを読んだみたいで何だか嬉しくなった。
「はい……寂しいです、先輩」
「また遊びにくるから。生徒会のこと、よろしくね」
 そっと先輩がその白い手のひらを差し出してくる。躊躇ったけれど、先輩が差し出してくれた手を拒絶することはできなくて、どぎまぎしながらそっと自分の手でそれを握った。私の手、汗ばんでないかな、不快に感じないかな。
「……ふふっ」
「?」
「今の月宮さんの顔、生徒会に入ってきた時と同じ顔してる」
「えっ」
 入ったばかりの時、で連想されるのは、あのガチガチに固まっていた変な顔の自分だ。かああ、と熱くなる頬を片手で抑えて俯く。
「す、すみません、私……」
「どうして謝るの? とても初々しくて可愛かったんだから、あの時の月宮さん。ほら、あの頃なかなか一年生の中に生徒会に入るなんて言ってくれる子がいない時期で、それは生徒会長である私が頼りないからだって話もあったのよ。そんな時、『生徒会長さんが素敵だったから』って一生懸命伝えてくれた月宮さんに、みんなだけじゃなくて、言われた当人の私が貴方に惚れてしまったくらいよ」
「っ!」
「ふふっ」
 分かってる、先輩の言葉に私が抱いたような疾しい気持ちはない。
 今までだってそうだった、先輩が私にくれる言葉に深い意味はない。だから、思い違いをしちゃいけないと何度も自分を諌めて。
 でも結局、ここまで思いを抱き続けてしまった。
 伝えたいと、願ってしまったんだ。
「先輩……私の話、してもいいですか?」
「あっ、そうだったね、ごめんなさい」
 どうぞ、と先輩が笑顔で私の言葉を待つ。
 痛い程抱きしめた思いを解き放つ時がようやく訪れた。大丈夫、決めたじゃない。万一私のことを気持ち悪く思ってしまったとしても、もう先輩と私の接点はなくなるんだから問題ないでしょうって。
 すう、と息を吸い、お腹に力を込める。
「……春野先輩、私」
「うん」
「……ずっと、先輩が好きでした。ふ、普通に先輩として、というのもありますがそうじゃなくて……その、一人の女の人として、先輩が好きでした」
 過去形で語るのは、私の恋はここで桜と一緒に散る運命だから。
 ただ伝えて、この思いを私から解放するのが目的だったから。
「こんな風に誰かを思うのって、大変ですね。私、初めて知りました。先輩が……初めて好きになった人で、お、女の子を好きになるなんてフツーじゃないって、たくさん悩んで泣いたりもしたけど……でも、今は」
 さあ、飛んで行け、私の思い。
「先輩を好きになれて、良かったって思います。それを最後に、先輩が卒業するこの日に伝えたかったんです」
「……月宮さん」
 私の告白を聞き遂げた先輩が口を開く。
 そこに広がっていたのは笑顔でも軽蔑でもなく、ほろ苦い悲しみだった。
 想像していなかった先輩の表情に、私はぽかんと口を開く。
「せん、ぱい?」
「もっと早く、その言葉を聞けていれば良かったな。……ううん、私が臆病すぎただけか」
「えっ」
 先輩の瞳が細くなる。その向こうがゆらりと揺れたのを見て、私は驚いた。卒業式でさえもみんなが泣く中、あの優しい笑顔を振りまいて励ましていた先輩が。
「……私も、貴方と同じ気持ちだったの」
「先輩、も……同じ?」
「ええ。私も貴方のことが恋愛対象という意味で好きだったの。本当よ」
 先輩の言っていることが理解できない。先輩も私のことが好きだった?
 嘘、両思いとかそんなの想像もしていなかった。それにそれを告げる先輩の顔はとても悲しくて……まるで失恋したかのような。
「いつも私の傍にいて、ころころと色んな表情を見せる貴方が可愛くて。そんな表情一つ一つがどうして私だけに振りまかれないんだろうって思ったら、気づいちゃったの。でも……私は月宮さんのように勇気を出して告白なんてできなかった。だから、最初からこの恋は諦めていたの」
「……そんな……」
「……それからね、私に告白してくれた人がいて。今、その人とお付き合いしてるの」
 さらに頭を殴られたような衝撃が私を襲う。先輩に恋人? そんな、確かに先輩はモテていたけど、告白される度に丁重に断っているって聞いてたのに。
「最初はごめんなさいって断ったのよ。でもね、あまりにも毎日のように好きとその人は言ってくれた。それを聞いている内に……私もその人に惹かれていったの」
「その……お付き合いしてる人って」
「男の子よ。ごめんなさい、誰かは教えられないんだ」
 先輩がもっと目を細めてそっとその唇に白い人差し指を押し当てる。さっき私と握手を交わした指が先輩の柔らかな唇に当たっている、そのことだけが私に理解できたことだった。
「……ありがとう、最後の最後で貴方がどう思っているのか知られて良かった。この恋は、もう花咲くことはないけれど」
「……先輩……」
「……ごめんね、辛い思いをさせてごめんなさい」
 先輩がぽろりと綺麗な涙を零す。
 ああ、私、ふられたんだ。
 ようやく理解できて、私も涙腺が緩むのを感じた。
 だけど。
「やっぱり、告白して良かった」
「え……」
 精一杯口角を吊り上げて、笑みを作る。
 どんな結果になっても決めていたことだ。笑顔で先輩を見送る。先輩に私の気持ちと感謝を伝えるんだ。
「先輩も私と同じ気持ちなら、きっと言葉には言い表せないような苦しみを抱えてきたと思います。私もそれは同じだから……だから良かったです。たとえ終わっている恋だとしても、ちゃんと思いを通じ合わせることができて」
「月、宮、さん……」
「先輩、ありがとうございます。この気持ちはちゃんと私が受け止めました。だから先輩は全部私に置いて行って、彼と新しい世界に行って下さい」
 先輩の体が震えて、両腕がこちらへ向かう。
 けれど、その腕は私を抱きしめることなく宙に浮いたまま止まる。私も、抱きしめられたらきっと大声を上げて泣いちゃうかもしれないから、これでいい。
「さようなら、先輩。いつまでもお元気で」
「……っ」
「先輩、行って下さい。私、ここで最後まで先輩をお見送りします」
 それが後輩としての最後の務め。
 私の方に伸ばされた両手をその胸に押し戻すと、先輩はぼろぼろ泣いたまま小さく頷いてくるりと背中を向ける。
「元気、でね……」
「はい」
「……っ私ってほんと、駄目な先輩だなあ……」
 何度も紺色の袖で涙を拭う先輩の小さな背中をそっと押す。
 ありがとう、好きでした。その気持ちを込めて。
 すると先輩が大きく頷いて、ゆっくりと一歩を踏み出した。
「さようなら」
 涙声だったけれど、それはいつも私に笑顔で挨拶をする時と同じ優しい声だった。
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