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馬車の中の小説家

 車輪が刻む音色に耳を澄ませながら、手元のペンを淀みなく動かす。時折大きく揺れて文字があらぬ方向へ行くのも、また一興だ。
 この狭い空間にいるのは、文字を綴る私だけ。一枚一枚丁寧に物語を綴れば綴る程、外の車輪はよく回って目的地へ近づいていく。
 目的地、それはすなわち「物語の終焉」だ。
 この物語は一体どんな結末に辿り着くのだろう。穏やかな春風が吹く温かな幸せか、それとも暗闇に支配された冷たい不幸か。どちらにしても、私はまた、そこから物語を生み出して、その終焉に向かってこの馬車を走らせるだけ。それが私に取っての喜びであり、生きている意味そのものでもある。
 ふと、丸い窓に視線を向けると、ふわりふわりと小さな光の粒が横切った。そっと窓の表面に指先を触れさせると、じんとするような冷たさが全身を突き抜けた。
 ーーよく見れば、地面も木々も真っ白に染まっている。その中でふわふわと漂うのは雪か。身も凍るような冷たさだけれど、その景色の美しさには息を呑む。
 今、書いている物語も、そんな物語だ。主人公に襲いかかる冷え冷えとした悲劇、しかしその生き様はどこまでも美しく、人を惹き付けずにはいられない。それはその主人公を生み出し、その生き様を書いている私でさえも美しいと感じる程に。
 彼女の行く末は、決して温かいものではないだろう。だけど、その頭上に広がるのは彼女を祝福するように輝く雪の結晶達。見えた、それがこの物語の終焉。そして、新たに始まる物語の出だし。したたかで美しい主人公から、一体どんな主人公が生まれるのだろう。今からそれを生み出すのが楽しみで仕方がない。
 でもまずは、この雪のような彼女の物語を書き上げなければ。

 車輪の音が鈍くなって来た。雪で走りづらいのだろう。
 しゃりしゃりと雪を削る音を聞きながら、私は足下を掬われながらも懸命に光に向かって進む彼女の物語を書き続ける。
 その終焉を書き終えるまで、ペンを止める事はない。
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