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百回目のまほう 中編

※いきなり始まります。初見の方は前編からどうぞ。

 歩けど歩けど暗闇ばかりで、目の前を歩くメロウの提灯の光だけが頼りだった。
「ま、待って、もうちょっとゆっくり歩いてよっ」
「……」
「ねえってば」
 黒いフードの先を掴んで引き止めようとすると、すかさず振り払われる。
「俺に触るな」
「う……」
「あと、ついて来んな」
「そ、そんなこと言わないでよぉ……」
 容赦ないメロウの言葉に、思わず半べそをかいてしまう。メロウはあのへらへら笑ってヘタレな調と同じ顔なのに、性格は全然違うみたい。そんなもんだから、私は調に対して出せていた強気な自分が引っ込んでしまって、代わりにどんどん弱くなっている気がする。暗闇も独りぼっちも嫌だもの。冷たいメロウの言葉も好きじゃないけれど、暗闇や独りぼっちよりはマシ。涙を懸命に呑み込んで、おずおずと彼の後をついていく。
 ふと、メロウが立ち止まった。
「え、な、何」
「うるさい」
 メロウが辺りを見回し始めた。辺りって言っても、暗闇ばかりで何かがあるようには見えないのだけれど、そう言えばさっきからまたあの変な寒気がするような。
 と、私の目の前でひらり、と何かが横切った。
「きゃああっ?!」
 思わずメロウにしがみついて叫ぶ。ああ、ひゅうひゅう耳元で変な音がする! 何かいる! こわごわと薄めを開けて、その音の主を何とか確かめようとすると、そいつはゆらり、とメロウと私の前に現われた。
「ぬ、の……?」
 トイレットペーパーみたいな白くて長いものがゆらゆら浮かんでいる。何だろう、こんな妖怪、どっかで見た事ある気がする。確か一反木綿、だっけ? でも特に顔もないから怖くな……いやいや、ウソウソ、怖い、いっぱいいる! 
「あ、あ……」
 力が抜けて、その場にぺたりと座り込んだ瞬間、隣のメロウがいきなり走り出した。
「え、ちょ、ちょっとおおお! 置いてかないでよ!」
 私もたまらず彼の背中を追う。すると、あの一反木綿みたいな奴もひゅるる言いながらついてきた。いやー!
「やだやだやだー! 来ないでこないでええ」
 あいつら結構速い。もう追いつかれた、そう思ったら、意外にもその白い体は私を横切って行った。
「え」
 奴らが追いかける先にあったのは、未だに逃げ続けるメロウの背中。
 狙いはメロウ? 何で。
 と、メロウが派手に転んでしまった。彼の手から提灯が落ちるが、炎は消えなかったみたいで遠くからでもその輝きがはっきり見て取れた。
 そのメロウの頭上で、一反木綿たちがくるくる回る。その内の一匹が、その先っぽをメロウの首筋に伸ばして行った。
「……っ、だめええ!」
 私は自分でもびっくりするくらい速く走って、メロウの体に飛びついた。すると、一反木綿たちがざざっと身を引いた。
「……重い」
「あ、ご、ごめんっ、でもちょっと待って。こら、あっちいけえ!」 
 ぶんぶん腕を振って一反木綿たちに威嚇すると、意外にも奴らはどんどんと身を引いて行き、やがて暗闇の中にふっと姿を消してしまった。
 ……なあんだ、案外ちょろかったな。
「はー……」
「……おい」
「え」
「重い」
「あ、ご、ごめんっ」
 ずっとメロウを下敷きにしていたことに気づいて、慌てて身を引く。メロウはむすっとした表情ではあるけれど、どうやら怪我はしてないみたい。良かった。
 安堵したのも束の間、メロウは落ちていた提灯を拾い上げると、何事もなかったかのように歩き出した。
「あ、待ってってば」
「……ついてくるなと言ったはずだ」
「……意地悪」
「何とでも」
 ふんと顔を背けるメロウ。何よ、少しくらいありがとうって言ってくれてもいいじゃないの。でも不思議だな、こんな光景、どこかでも見た事がある気がする。
『許してよ、律』
『知らないっ』
『もう、律ってばー』
 私を懸命に追いかけて来て、にこにこしながら謝る調。そんな彼に私はいつも冷たくそっぽを向いていたっけ。
 ああ、そっか。今の私は調と同じ立場なのかも。どんなに追いかけても冷たくあしらわれる気持ち、こんなにちくんと痛むものだったんだね。なのに調はいつも私ににこにこして話しかけてくれた。私にはもったいないくらい、素敵な幼馴染みだったんだ。
 ふと、前を歩くメロウがちらりとこちらを見た。私が答えるように首を傾げたけれど、何も発さずに再び目線を逸らしてしまう。辛いけど、いいや。ひとまずは彼を守れただけで良しとしよう。
 考えを切り替えようと、彼の隣に並ぶ為駆け出した途端。
「ひゃああっ?!」
「!」
 足がいきなりぬめり気のあるものに絡めとられ、そのままずぶずぶ沈み出したのだ。慌てて足をばたつかせても、少しだけ沈む速度が落ちただけで体はどんどん下降する。下を見ても闇が広がるばかりでそこに何があるかさっぱり分からない。
「た、助けてー! いやあああ!」
 得体の知れないものへの恐怖に半べそどころか本格的に泣き出した私の頭上に、ふわりと柔らかな光が現われた。すると、ぬめぬめしていたものが急に体中から引いて行って、自由になった私の体はそのままその場に横たわった。
「ふえ……?」
「間抜け」
 そんな私を、提灯の光を手向けたメロウが見下ろしている。
「これ、やる」
 言いながら提灯を軽く揺さぶると、その隙間からふわり、と手のひらサイズの炎が零れ落ち、私の頭の上にゆっくりと落ちて来た。そっと指先でそれに触ってみたけど熱くない。
「それがあれば、さっきみたいなことにはならない」
「本当?」
「……嘘を言って、俺に何の得があるんだ」
 メロウは相変わらずそっけない。だけれど、私の顔をじっと見つめて何か言いたげにも見えた。
 ひょっとして、心配してくれたのかな。
「あ、ありがとう……!」
 嬉しくて濡れた頬をそのままに笑ってお礼を伝えると、メロウは少しだけ居心地悪そうに目線を逸らしてしまった。
「別に。さっきの借りを返しただけだ」
「それでも、嬉しい。ありがとう、メロウ」
 メロウから貰った炎を胸元に抱きしめ、私はもう一度お礼を伝えた。
「……いつまでそこに蹲っているつもりだ。置いて行くぞ」
「あ、そ、それはだめ! 待ってよお!」
 歩き始めた彼を追いかけ、私も小さな炎を胸にその背中を追いかけて歩き出した。

 それからも、私たちの前に一反木綿は何度も現われて、その度に逃げるメロウばかり追いかけた。奴らに対してメロウが反撃することはできないみたいで、彼はただひたすらに逃げ惑うばかり。だけど、私がそんなメロウの前に進みでて奴らを牽制すると、何故か嘘みたいに姿を消して行った。
「お前、どうしてそんなことができる?」
「どうしてって聞かれても困るんだけど……分からないよ」
「……ふうん」
 一度メロウにそんな風に問われたこともあったけれど、私が奴らを追っ払えるからか、以前のように「ついてくるな」とは言わなくなった。それどころか、時折私を不思議そうに見つめる瞳がくすぐったく感じた。メロウ自身は何も言わないけれど、彼の中で少しだけ私に対する信頼みたいなものが生まれているんじゃないかな。調にそっくりな彼に僅かでも好意みたいなものを持ってもらえることは嬉しい。メロウが調じゃないのは分かっているけど、調が「大嫌い」と言った私を許してくれているような、そんな気がしたから。
ーーこの夢は、いつ覚めるんだろう。闇ばかりで怖い世界だと思っていたけれど、メロウと一緒だから「現実」よりも悲しくないし辛くない。彼が目指しているところまで、できる限りついていきたいな、と隣を歩きながら思っていた。
 そんな、ある時。
「……あれ」
 その輝きが弱くなっていることに最初に気がついたのは、私だった。メロウの提灯の中に収まる光が、まるで切れる直前の電球のように微かに点滅を始めたのだ。
「メロウ、炎が……メロウ?」
「っ」
「メロウ!」
 メロウに伝えようとした途端、彼の体が大きく揺らいでそのまま闇の床に倒れ込んでしまった。慌てて抱き起こしたけれど、その体は恐ろしいほど冷たくなっていて、私の背中に嫌な汗がたらりと流れて行く。
「メロウっ! どうしたの、メロウ、返事をして!」
「……っう」
「メロウ!」
「……る、さい……何でも、ない」
「何でもないって、何でもなくないよ! メロウ真っ青じゃない! どうしちゃったの?」
 目を開けるのも精一杯、と言わんばかりに瞼を震わせる彼に懸命に声をかける。
 だけどメロウは何度も首を横に振って、最後の力を振り絞るようにぐっと私を見上げた。
「何でも、ないんだっ……俺より、炎、を」
「炎?」
「そう、炎を、守って……」
 ふっとメロウの体から一気に力が抜けて行く。
「メロウ、メロウ!!!」
 何度も揺さぶったけれど、メロウは荒い息を吐くばかりでその瞼を開けることはなかった。
 どうしよう。炎は相変わらず点滅したままだし、メロウは辛そうだ。
 いやな寒気が私たちを包み込む。とにかく、このままここにいても埒が明かない。
 私は決意すると、メロウの体を背中に担いで、床に落ちたままの提灯を手に取った。メロウは炎を守れって言ってた。この炎はきっとメロウにとって命と同じくらいに大切なものだ。今は私しか、守れない。
 でも、どこにいけばいいの。行き先はメロウしか知らない。私はただ彼についてきていただけだし、彼も教えてくれなかった。ただ闇雲に歩いても、目的地に辿り着ける可能性があるのだろうか。
 と、その時、提灯の炎がいきなりぼっと音を立てて強く燃え上がった。
「へ?」
ーーあかるいところへ つれてって。
ーーぼくが いるべきばしょへ つれてって。
 耳に流れ込んで来たのは涙が出る程懐かしいあの声。炎がめらめら燃える音に混じり、その澄んだ声が私に指差す。
ーーあっち。
「!」
 目の前に、小さいけれど光が見える。メロウの炎以外で初めて見る光だ。
 あそこが目的地。あそこに行けばいいんだ。
「調、いるの?」
 懐かしい声の主に問いかけてみたけれど、今度は何も答えなかった。
 私は背中のメロウを背負い直すと、提灯を手に光の方へ走り出した。
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