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ベガの彼女

七夕だったので。
彼氏視点はピクシブにあります。


ベガの彼女

『今年も君は帰って来ないんだね。つれないな』

 夜空に煌めくアルタイルよりもメールの相手の彼との距離が遠い。乙葉は深々とため息を吐くと、『仕事で忙しいの。分かってるでしょう』と冷静に返信を打った。返信メールをするだけでも、乙葉にとっては十分すぎるほどの愛情表現だというのに、彼女を「君は綺麗だけど、クール過ぎてときどき遠くに感じる」と言う。そんな彼とは今年の秋で六年目の付き合いだ。それでもなお、こんな拗ねた口調のメールを送り続けている彼に、乙葉の気持ちはますます荒れた。
 パソコンの周りに積み上げられた書類の山々は、朝からぶっ通しで取り組んでいるのにも関わらず、一向に減る気配を見せない。気分転換にメールを覗けば恋人からの拗ねたメール。たまったものではない。
(……何の為に頑張ってるのか、わかんなくなってきた)
 ふらりと立ち上がると、そのまま背後にあったシングルベッドに身を投じる。逆さまの視界から見える星々の名前が、恋人の声で再生される。
「アルタイル、ベガ、ベネブ……だっけ」
 気がつけば七月、皮肉にも今日は七日。恋人から付き合わないかと告げられた日だ。織姫になってくれ、とでもいうのかと思ったら、彼は至極真面目な顔で、
「ベガを見上げる度、君を思い出したいんだ。そして、君にはアルタイルを見る度、僕を思い出して欲しい」
「天の川を渡って、デートできるように?」
「そう」
 笑い飛ばそうと思ったのに、真面目な顔を崩さず言うものだから、結局流されるように頷いてしまった、幼い六年前の自分。あの頃は今の位置を夢見て、ひたすら頑張り続けていたものだ。
(そういえば、いつの間にか忙しさばっかり目について、『もっと頑張りたい』って気持ちが全然なかったような気がする)
 自分を応援してくれる恋人が愛おしくて、こうして西の異国に旅立つ前にたくさんの星の名前を教えてもらいながら励んでいた乙葉は、今の乙葉から見ても眩しく、それこそ彼の言う「ベガ」に相応しい光を持っていた。
 じ、とベガからアルタイルへ視線を向ける。あの涼しい湖畔の小屋で一人、小説を書き続ける彼を思うのも、また久方ぶりのことだった。
「あ」
 きらり、と横切った一瞬の軌跡に、思わず乙葉は窓にはりついた。
 もうその光は夜空の闇に消えてしまったけど、乙葉の心にはその欠片がしっかりと宿っていて。
「……ふふっ」
 思わず笑みが浮かぶ。そういえば笑うのも久しぶりだった。
 と、乙葉のパソコンからメールの到着を知らせるオルゴール調のアラーム音が鳴った。見れば、乙葉のアルタイルからの返信メールのようだ。
 タイトルは星が降ってきたよ。目を丸くしつつ内容に目を通す。
『僕のところに星が降ってきたんだ。君は仕事ばかりで空を見上げる暇なんてないんだろうけれど』
最後はいつも通り皮肉めいた一言が付け加えられているが、最初の文章に乙葉の心の欠片が懐かしい気持ちに変化する。
 流れ星が見える度、教えてくれた、あの笑顔を。
 何て打とうか、キーボードを前に少し考えた後、こう打ち込んだ。
『月が、綺麗ね』
 乙葉の部屋からは月は見えないけれど、彼女よりロマンチストな彼はこの言葉の意味を読み取ってくれるはず。ほんの少し甘酸っぱい気持ちで鼓動を鳴らしながら、送信ボタンをクリックした。
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