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兄のイイナヅケ

※一応単独でも読める仕様になってるといいな(希望)。これに関連するお話をラノベ杯に出しました。出したお話は後日こちらにもアップします。





「ねえ新。新は良太のことが好きなんだよね」
 不躾なその言葉に、私は酷く狼狽した。全身の血という血が頭に上って爆発しそうだ。
 歩はそんな私をへらへらと笑いながら見ている。
「あ、顔赤い」
「っ、な、そんなことない!」
「別に隠さなくてもいいんだよ。好きなら好きで応援するし」
「だから好きじゃないってば」
「頑張れ、新」
「っ歩!」
 私が力一杯怒鳴っても、歩はけらけら笑うばかりで、ますます苛立ちが募る。
 違う、そうじゃない。
 私はアンタの「イイナヅケ」のことなんて、これっぽっちも思ってなんか。
 そう自分に言い訳しているうちに、私の兄であった歩は突然消えてしまった。幼馴染みで「イイナヅケ」という名の親友だった良太の隣から、こつ然と。




兄のイイナヅケ


 お通夜の間、私は描きかけだった「歩の絵」を仕上げていた。歩がどうしても描いて欲しい、一生のお願いとか言うから描いたけど、あのへらへらした感じがどうしても出なくて難しい。
 顔のパーツは私とほとんど同じなのに。
 そのことが昔から私のコンプレックスでもあった。
『あら歩くん、こんにちは、一人? 良太くんは一緒じゃないの?』
 近所のおばさんに何度この台詞をぶつけられただろう。スカートを履いていても、髪留めをつけていても、私は兄の歩に間違えられてばかりいた。それだけならまだしも、「良太は一緒じゃないのか」という台詞までセットで聞かれるから余計嫌だった。
 その内面倒になって、「良太んちこれから行くんだ」なんて歩のフリまでしてみせたけど、空しいだけだった。
 何で歩ばっかり。
 良太が歩の「イイナヅケ」なのも、不満だ。
 「イイナヅケ」とは、私のお母さんと良太のお母さんがお互いに子供が生まれたらその子達を結婚させる、という他愛無い約束をしていた、というお話から、良太たちが作った言葉だ。いつも一緒で親友の二人は、「イイナヅケ」という言葉を作ることで、お互いだけの世界を作っていたのだ。
 私は、「イイナヅケ」という言葉が好きじゃない。
 その言葉一つで良太と歩をひとくくりにして、私はそこに決して入れないようにするからだ。「新の場所はここにはないよ」と良太の隣にいる歩から牽制されている、そんな気分にさせられる。
 何が応援するよ、だ。いつも当たり前のように良太の傍にいる歩なんかに、私の気持ちなんか理解できるわけないんだ。いなくなったって、同じ。
 私は「歩」にも「イイナヅケ」にもなれない不良品、そんな私の気持ちなんか。
 感情が昂り、歩の絵が心底憎たらしくなってきた。こんな絵、もういらない。鉛筆を置いて「お絵描き用」の算数ノートに描かれたそのページに手を掛けた途端、背後で障子の扉の開く音がした。
「お、ここにいたか、新」
「!!」
 ノートを閉じてテーブルに叩き付けると、私は何事も無かったかのように温かい緑茶に手を伸ばす。ちびちびとそれに口をつけ始める私の隣に腰掛けると、良太は同じくテーブルにあった清涼飲料水のペットボトルを掴んだ。
「ずっと部屋に閉じこもってるから、おじさん心配してたぞ?」
 少し疲れた声。ずっとお父さんと一緒にお通夜の片付けをしてたせいかもしれない。
 もの凄い勢いで心臓が煩く喚いている。口から飛び出して、良太を驚かせてしまいそうだ。何か話さなければならないという妙な緊張感が出てくる。幼馴染みなのにこんな変な緊張感が出てしまうのは、私と良太は二人きりで話すことに慣れていないからだ。
 私と良太が話す時、いつも歩が傍にいた。歩は距離のある私と良太を繋ぐ要だったのだ。
 その存在がなくなれば、私と良太は。
「勉強してたのか、真面目だなお前」
 良太が笑う。ばか、私が勉強するわけがない。暇さえあれば勉強よりも落書きを優先させるような私が。
「歩とは違うな、お前は」
 良太が小さく呟く。
 その言葉が、何よりも痛かった。
 良太の「イイナヅケ」がいなくなって、私と彼を繋ぐものも断たれて。
 私も、そして多分良太も途方にくれている。どうしていいか分からなくて。
「……じゃ、そろそろ俺帰るわ。お前もお疲れさん」
 ぽん、と頭に置かれた温もりが悲しくて悔しくて、私は思わず振り払ってしまった。
「新?」
 驚く良太を無視して私は二階へ逃げる。
 こんなに悔しくてたまらない気持ち、歩がいた頃なんかよりも比べ物にならないくらい大きい。
 気がつけば私は歩の部屋で、クローゼット奥で眠っていた黒いランドセルを睨みつけていた。
 私は「イイナヅケ」にも「歩」にもなれない。そんなの分かり切ったこと。それでも私にとって、幼い頃からずっと見ていた特別な人は、良太だから。彼に何かを訴えるため、また生温い関係への反抗のため、「歩の真似」をすることに決めた。




「新、待てよ」
 今日も私の後ろを良太がついてくる。私はぎろりと、その歩譲りの能天気そうな笑顔を睨みつけた後、走り出す。背負った歩のランドセルがカラカラと音を立てて「歩の真似」をする滑稽な私を嘲笑う。滑稽なのは承知だ。いくら頑張っても私は彼にとって所詮「イイナヅケの妹」なんだと思って、情けなくなることもあるけど。
『応援してるよ』
 あんなに苛立ったはずの歩の言葉が、こんな私の背中を押してくれているような、そんな不思議な気持ちになるから、私は今日も「歩の真似」を止められない。
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