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寒がりのマリア

即興ss三十分、お題:春のクリスマス







「一人でいいって、言ったじゃないですか」
 膨れっつらでお好み焼きを突っつく私に、高嶋せんぱいが肩を竦めて苦笑する。
「一人でいいって、お前そりゃないよ。今日何日だと思ってるの」
「とある十二月の普通の平日です」
「まあ、確かにそれはそうなんだけど。お前可愛くねえな」
「どうせ私は可愛くありません」
 ほっといて下さいよ、とすっかり炭酸の抜けたノンアルコールビールに手を伸ばす私に、せんぱいが「こっちにしなよ」とノンカロリーのコーラをくれた。ノンカロリー。響きはいいけど、別に私カロリーを憎んでる訳じゃないから特に惹かれない。むしろ抱きしめると寒い、がりがりぽっちな体はあまり好きじゃない。
 ペットボトルの蓋を開けると同時に、女の子の黄色い歌声が聞こえて来た。この耳障りなアイドルの歌声の源は、せんぱいのリュックに押し込まれたケータイとみた。ほら、ぶるぶるぶるぶる、炭酸のしゅわしゅわのリズムに合わせて震えているじゃあありませんか、せんぱい。
「せんぱい、ケータイ」
「ほい」
「って、私の渡せって言ったんじゃないんですけど」
「ハルのケータイって可愛いよな。これ、自分でデコったの?」
「私にこんなふりふりレース付きリボンのシールとおばちゃんが買うようなギラギラしたラメでデコる技術、あると思います? 妹ですよ、妹。この前実家に放置してたら、勝手にやられてたんです。それより、ケータイは、せんぱいの方です」
 せんぱいの手でふらふらしていたケータイを奪い取って、顎でしゃくると、せんぱいはへいへいと言いながら自分のケータイを手に取って、なんとそのまま電源をオフにした。あ、そろそろひっくり返さなきゃ。
「ちょっと、せんぱい」
「あー、はいはい、オレがやる、オレが」
「いいですよ、私がやります。元々私一人のパーチーですから」
「今はオレもいるでしょ。大体、ハル不器用だからお好み焼きぐっしゃぐしゃにしちゃうじゃん。はい。大人しくフライ返し貸して」
「お願いします……って違います、そうじゃなくて」
「何、よっと」
 せんぱいの浅黒い手が器用にフライ返しを操った結果、見事綺麗に焼けたお好み焼きがじゅわ~。香ばしい匂いが鼻に突っ込んで来てうっとり……違う違う。
「ケータイ。はるこちゃんでしょ」
「うん、はるこだったね」
「はるこだったね、じゃありません。今すぐ会いに行って下さい。どーせ呼び出されてるんでしょ」
「オレは嫌だって、はるこに言ったんだけどねえ」
 じゅうじゅう、とフライ返しをお好み焼きの表面に押し付けながら、せんぱいはのほほんと言い放つ。せんぱいはいつもこうだ。相手の気持ちなんかお構いなしに、とりあえずのほほんとしてればいっか~みたいなノリで、のほほんとしている。そんなせんぱいの一面が私は大好きで大嫌いなんだけど、はるこは大好き通り越して愛しちゃってる。あれかな、あばたもえくぼ、という奴か。好きな人が暢気で甲斐性なしで自分を何度もこっぴどく振っていても、追いかけちゃうタイプか。うん、まあはるこらしい。はるこなら、きっと浮気なんてしないんだろうなあ、本当に好きな人とお付き合いできたとしたら、だけど。
「はるこが正直ここまで頑張る子だとは私思いませんでした」
「うん、はるこはがんばりやさんだねえ。ハルとは大違いだ」
「どうせ私は飽き症で甲斐性なしでついでに化粧っけもないですよ」
「オレの前では全然いいけど、せめてバイト先では最低限しような」
「してますよー。リップくらい」
「よし、じゃあ今度お兄さんがアイブローを買って上げよう」
「いりません」
「誕生日祝い。今日、間に合わなかったしさ」
 誕生日祝い。うう、嫌な響き。あからさまに顔をしかめると、せんぱいがどうしたのと尋ねてくる。
「あの、私誕生日嫌いなんです」
「何で」
「寒いの嫌いです。私、春に生まれたかった。そうすればケーキもアイスもおいしくいただけますし、それにクリスマスプレゼントと誕生日プレゼントを一緒にされることはないですから」
「そんな理由?」
「誕生日がクリスマスイブじゃないせんぱいには分かりませんよ。私は名前がハルだけに春が好きなんです。温かければ、誕生日とクリスマスをごちゃまぜにされても、少しくらいは許せるレベルです。いっそ、クリスマス、春にするべきですよ」
「何だそりゃ。イエスキリストに春生まれになれって?」
「その方がいいですよ。だって春、温かいし。クリスマスの馬小屋なんて想像しただけで、足の小指が凍ります」
 ぽかぽかとしたあの陽気を思い浮かべるだけで、ほわんと幸せな気持ちになれる。現実はお好み焼きから発生する煙しかないけど。
「ちなみにはるこはクリスマス大好きだって。だからハルはいいなあっていつも言われます」
「だろうね。一ヶ月前からクリスマス話題か告白の話題しかしてこなかったし」
「せんぱいとクリスマス、はるこは過ごしたいんだと思うんです」
「うんうん」
「それでも、はるこはダメなんですか」
「……いい子なのは認めるさ。がんばりやな子は嫌いじゃない。でも、恋愛対象にはどうしてもなり得ないだけ。それだけさ」
 再度せんぱいがお好み焼きをひっくり返す。この間も、はるこは寒空の下、せんぱいを待ち続けているのだろうか。確かせんぱいにプレゼント渡すんだって私に手編みのセーターかなにかを見せていたし、その完成品をぎゅっと小さな手に持って待ってるんだろうなあ。
 せんぱいは、全然はるこに振り向いてくれないのに。
「どうしたの、ハル」
「何か想像したら、ちょっと寒くなっただけです」
「今、はるこが外で待ってるって?」
「はい。しかもそのはるこの「せんぱい」が一人寂しく誕生日を迎えるはずだった私の家に押し掛けてお好み焼きを焼いてるんだと知ったら、さすがに友達やめられちゃうかもなあって」
「いやー、オレはるこに言わないって」
「……せんぱいは、何で私の誕生日、調べたんですか。どうせさちこからでしょ」
「うん、さちこから。ハルはクリスマスイブが誕生日だから、クリスマスデートに誘うと超不機嫌になるんですよーって」
「その通りです、超不機嫌です。だから私、言いましたよね、クリスマスイブはせんぱいと過ごせませんて。それでもせんぱいは、来ました」
「そりゃもちろん、好きだから」
「……好き」
「そうだよ、大好きな君と一緒にクリスマス過ごしたいから。クリスマスは好きな人と過ごす、鉄板でしょ」

じゅっ。
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