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えびすさまのおきにいり

あけましておめでとうございます(遅)


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「え……え、えびちんっ!」
 引き締まった冬の早朝。いつもと何ら変わりのない住宅街を横断している途中で、くしゃみにしては独特すぎる擬音を聞いて、恵理は迷いなく振り向く。その彼女の数センチ先で幼なじみの少女が小さな鼻を真っ赤に染めてぐずぐずと明らかに不調な音を出していた。
「あぅ~、気づかれちゃったぁ……えびちんっ」
 ぴょこんと結んだ桃色のマフラーの端と一緒に飛び跳ねる彼女が隣にやってくると、恵理はやれやれと肩を竦めながら唇を開いた。
「おはよう、依子(よりこ)。相変わらずね」
「う~……後ろからこそ~っと近づいて、今日もクールな恵理ちゃんを驚かせようと思ったのにぃ……えびちっ」
「ほら、鼻拭きなさいな。女子高生の顔とは思えない顔になってるわよ」
 頬を赤らめてくしゃみを連発する依子に恵理はポケットティッシュを取り出して、彼女の鼻先を軽く拭ってやる。それに対し依子はえへへとふくよかな頬を緩めて微笑んだ。
「あ、ありがと、恵理ちゃん……ぐしゅ」
「お正月早々無理して早起きして初詣に行ったせいね。ただでさえ風邪を引きやすい体質なんだから、あんな無茶はもうダメよ」
 恵理がそう窘めると、依子は拭いてもらったばかりの鼻先を指でつつきつつふっくらとした唇を尖らせた。
「だって、恵理ちゃんとどうしても初詣行きたかったんだもん。今年は高校生活最後だし、何より受験だよ? 大事な一年になるんだから、しっかりカミサマにお願いしないと……えびちんっ」
 再びくしゃみをもらした依子に、恵理はため息を零しつつ持っていたポケットティッシュを丸ごと彼女に放った。
「足りないと思うけど、使いなさいな。あと、ティッシュはいい加減貴方の場合常備しなさいと言ってるでしょう」
「ごめ~ん……用意してたんだけど思い切り机の上に置いてきちゃって……くしゅ」
「……貴方の場合、受験の合格祈願だけじゃなくて、忘れ物防止の祈願も必要ね。私の祈願だけじゃ叶ってないみたいだから、貴方も今度ちゃんとお祈りしなさいな」
 呆れ返った声で恵理がそう告げると、ティッシュで再び鼻を拭き始めた依子が動きを止めて瞳をまん丸に見開いた。
「え、恵理ちゃんっていつもあたしの忘れ物防止祈願してくれてるの?」
「当たり前でしょ。貴方と初めて初詣に行った、小学校一年生の時から欠かさずお願いしてるのよ。残念ながら、一度も叶ったことはないけれどね」
「あ~、多分それはあたしの横にいつも恵理ちゃんがいてくれるからだと思うな~……ぐしゅ」
「私がいるから?」
 きょとんと目を瞬かせる恵理に、鼻をちーんとかみながら依子がにっこりと笑って頷く。
「うん、だってあたしが忘れても恵理ちゃんがちゃーんとフォローしてくれるから、カミサマもそれなら大丈夫って忘れ物防止の代わりにいつもあたしの横に恵理ちゃんを置いてくれてるんだよ、きっと!」
「……なるほど、小学校も中学校も高校も、一度も貴方と別のクラスにならなかったのはカミサマの策略という訳ね」
「そうそう! だから恵理ちゃんのお願いがそう言う形で現れてるんだろうなーってあたしは思……えびちん!」
 子どものように無邪気にはしゃぐ依子の言葉を、また独特のくしゃみが遮る。
「……ほんと、今年も相変わらず貴方の『恵比寿様くしゃみ』は絶好調ね」
「えへへ、そうでしょそうでしょ? ぐしゅ」
「別に褒めてないわよ。いくら縁起の良さそうな響きをしていても所詮は病原菌を孕んだ吐息だもの」
「うー、恵理ちゃんひどいぃ~……でもでも、あたしのくしゃみ聞いて告白に成功したとかテストでいい点とれたとか、そういう話もあるんだからっ! 昔からあたしの隣にいた恵理ちゃんなら知ってるでしょ?」
「ただの偶然よ。それに、それなら一番近くにいる私にご利益がないとおかしいじゃない。残念ながら、そう言ったご利益は一度もないのだけれど」
「あるよ~、ご利益~」
「へえ、どんな?」
 挑発的に笑って尋ねる恵理に、依子は貰ったティッシュを大事そうに胸に抱きしめて彼女の隣に並んだ。
「いつまでもずーっと仲良しでいられるっていうご利益! 昔からのあたしと恵理ちゃんのお願いごとが、今も継続して叶ってるじゃない」
「それ、全然ご利益じゃないから。むしろ疫病神的な何かじゃないのかしら」
「えーっ、ひどいよぅ、恵理ちゃん!」
「冗談よ」
「顔が全然冗談言ってるように見えないよぅ~ふぁっ……えびちんっ」
 拗ねながら再びくしゃみをする幼なじみを見つめ、恵理はくす、と笑い声を立てつつその小さな頭を撫でてやった。
「仕方ないから、今年もちゃんと見ててあげるわよ。……来年一緒にいられるかどうかは、貴方の学力の向上に掛かってるんだからね」
「大丈夫っ、恵理ちゃんが丁寧に教えてくれるもん! ぐしゅ」
「……ほんと、人任せな恵比寿様ね」
「えへん」
「褒めてないから」
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