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馬車の中の小説家

 車輪が刻む音色に耳を澄ませながら、手元のペンを淀みなく動かす。時折大きく揺れて文字があらぬ方向へ行くのも、また一興だ。
 この狭い空間にいるのは、文字を綴る私だけ。一枚一枚丁寧に物語を綴れば綴る程、外の車輪はよく回って目的地へ近づいていく。
 目的地、それはすなわち「物語の終焉」だ。
 この物語は一体どんな結末に辿り着くのだろう。穏やかな春風が吹く温かな幸せか、それとも暗闇に支配された冷たい不幸か。どちらにしても、私はまた、そこから物語を生み出して、その終焉に向かってこの馬車を走らせるだけ。それが私に取っての喜びであり、生きている意味そのものでもある。
 ふと、丸い窓に視線を向けると、ふわりふわりと小さな光の粒が横切った。そっと窓の表面に指先を触れさせると、じんとするような冷たさが全身を突き抜けた。
 ーーよく見れば、地面も木々も真っ白に染まっている。その中でふわふわと漂うのは雪か。身も凍るような冷たさだけれど、その景色の美しさには息を呑む。
 今、書いている物語も、そんな物語だ。主人公に襲いかかる冷え冷えとした悲劇、しかしその生き様はどこまでも美しく、人を惹き付けずにはいられない。それはその主人公を生み出し、その生き様を書いている私でさえも美しいと感じる程に。
 彼女の行く末は、決して温かいものではないだろう。だけど、その頭上に広がるのは彼女を祝福するように輝く雪の結晶達。見えた、それがこの物語の終焉。そして、新たに始まる物語の出だし。したたかで美しい主人公から、一体どんな主人公が生まれるのだろう。今からそれを生み出すのが楽しみで仕方がない。
 でもまずは、この雪のような彼女の物語を書き上げなければ。

 車輪の音が鈍くなって来た。雪で走りづらいのだろう。
 しゃりしゃりと雪を削る音を聞きながら、私は足下を掬われながらも懸命に光に向かって進む彼女の物語を書き続ける。
 その終焉を書き終えるまで、ペンを止める事はない。
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両思いカップケーキ

※女性同士の恋愛のお話です。以前書いた「片想いチョコレート」の続きみたいな

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百回目のまほう 後編

 光までなかなか辿り着かない。代わりに冷え冷えとした気配がはっきりと「視覚」で感じ取れるようになってしまった。
「っやだあ!」
 私とメロウの周りをぐるぐると徘徊する一反木綿たち。私の両手が塞がっていることをいいことに、どんどんとその距離を詰めてくる。触られないように左右に体を揺さぶりながら走るのは、かなりしんどかった。
「あっち行ってってば!」
 どんどん息が荒くなっていく。きつい、辛い。
 手元の提灯と背中のメロウが唯一の支えだ。そう思って提灯に目をやった途端、
「えっ……?!」
 提灯の炎が、見る見るうちに弱くなっている。さっきまでは手のひらサイズの炎が確かに見えていたのに、今はロウソクの火みたいだ。炎を守って欲しいとメロウは言ってたけど、これが消えたら一体どうなってしまうの。
 背中のメロウが急に冷たくなったように感じられ、私は嫌な考えに辿り着いてしまった。
 まさか、この炎はメロウの命と繋がってるの?
「っだめえ! 消えないで、消えちゃダメ、メロウ!!」
 苦しい。だけど叫ばずにはいられない。消えていこうとする彼のぬくもりに懸命に呼びかけてみるけど、炎はさらに爪の先のサイズにまで小さくなってしまう。
「だめっ、だめええ!」
 お願い、消えないで。私の傍から消えないで。
 目尻からぐっ、と熱いものが零れ落ちるのを感じた時、私は胸の奥が急に熱くなるのを感じた。
「え」
 ぼっ、と音を立てて私の胸元から現われたのは、別の炎の輝き。それが見る見るうちに私を包み込んでいく。あれ、炎の中なのに熱くない。それどころか、周りに漂っていた白い気配たちを次々と闇の奥へ追いやっていく。一体何なんだろうあの炎。だけど、それよりも今はメロウの炎の方が大事。
 私は一度緩みかけていた足に鞭を打って、走り出した。
 ああ、ようやく光の穴が大きくなって来た。もうすぐ、その先へ辿り着ける。
 お願い、間に合って、間に合って!!
 私はそう強く願いながら、闇の世界を抜け出し、ついにその光の先へ触れた。

「ーーつ。律ー! 遅刻するわよ、起きなさい」
 光に飛び込んだ先にいたのはお母さんの声と見慣れた白いレースのカーテンだった。
 ……夢、そうだった、あれは夢の世界だった。
 なのに心臓はばくばくだし、メロウを背負っていた背中は疲労感で重い。
 メロウはどうなったの。あの提灯の炎は? 
「律! いい加減に起きなさい!」
「……起きてる、行く!」
 夢の世界に戻る暇もなく、私はベッドから抜け出した。

 メロウが倒れた時、メロウが託してくれたあの提灯から聞こえて来たのは、調の声だった。
 メロウとあの炎が助かっているのなら、もしかしたら調にも何か変化があったのかもしれない。そんな淡い期待を抱いて、私は学校の帰り道に調の病院へ向かった。いつものように病室のドアの前で深呼吸すると、そっとそのドアノブを回す。
 いつもと同じ消毒液の独特の匂いに包まれた真っ白な部屋。そのベッドにはーー眠ったままの調。夢でメロウと出会う前と、何ら変わりのない光景だった。
「……そう、だよね。だって、夢、だもんね」
 分かっていたはずだった。そんな都合のいいことは起こらないと。
 調が眠ったままなら、メロウは一体どうしたのだろう。
 夢なら都合いいこと、起きてもいいよね。……大丈夫、だったよね。
 調の傍の椅子に腰掛け、眠り続ける調の顔を覗き込む。
「調……」
 「現実」では目覚めなくても、せめて夢では無事でいて欲しい。
 もう一度眠れば会えるかな……メロウ。
 ふ、と瞼を閉じると、一気に眠気が押し寄せて来て、私はその眠気に意識を委ねていった。

ーー律。
 私を呼ぶ声がする。調だ。
 瞼を開けると、そこは七色のステンドグラスの世界が広がっていた。眩しいその煌めきに目を凝らすと、その中央で白いベッドに寝かされている男の子を見つけた。体に纏うのはあの黒いローブ、すぐ傍に置かれているのはあの提灯。
「メロウ!」
 私が彼の傍まで駆け寄ると、不意に提灯からゆらりと手のひらサイズの炎が顕現した。炎はそのまま宙に浮かび上がったかと思うと、ゆっくりとメロウの胸元まで下降していく。そしてそこへ触れるか否かのところで音もなく消え去った。
「……ん」
「! メロウ!」
 メロウの唇から微かなうめき声が漏れ、それに反応したかのように白い瞼がゆっくりと開かれていった。思わずその顔を覗き込んだ私を、その小さな目がまじまじと見つめ、
「……お前、ちゃんと炎、守ってくれたんだな」
「……みたい、だね」
 曖昧に頷く。
 一度夢から覚めてしまったからどうやってこの場所まで辿り着いたのかは分からないけど、提灯の中の炎にもメロウにも再び会えた。
 メロウはその唇の端を優しく歪ませ、
「そうか……守ってくれて、ありがとう」
 それは、初めて見るメロウの笑顔と感謝の言葉だった。
 だけど、私は知っていた。その笑顔もありがとうも、全部メロウと瓜二つの調からいつも貰っていたから。
 当たり前過ぎて忘れていた。それがとびきり私を幸せにしてくれる「魔法」なのだと。
「……? 何で、泣いてるんだ、お前」
「え……」
 メロウに言われて、ようやく頬に伝う雫の存在に気づく。一度それに気づくと、心がようやく追いついて来て、ああ、今私は悲しいんだと思った。
 メロウの笑顔を見たら、調にどうしても会いたくてたまらなくなった。
 だけど、調は眠ったままだ。この夢から覚めたら、またベッドに眠り続ける彼の顔を見なければならなくなる。
「メロウ……っ、私……」
「どうしたんだ」
「私、私ね、大好きな人がいるの。でもね、その人、ある日突然目覚めなくなっちゃって……私、彼が眠る前に大嫌いなんて言っちゃった。本当は、好きなのに」
 大嫌いと言い続けた自分をこれほど嫌いになったことはない。
 今まで言い続けた言葉は取り消せないけど、できることならもう一度目覚めた調にちゃんと言いたい。
 本当は。
 と、メロウがいきなり起き上がったかと思うと、泣きじゃくる私の胸元を徐に指差した。
「大丈夫だ。今のお前には、ここに『魔法』がある」
「ま、ほう……?」
「そうだ。お前だけにしか使えない魔法。俺、気絶していた間、微かだがお前の力を感じたんだ。あの時は何が何だか分からなかったが、今なら分かる」
 そして、メロウはそのまま私の肩を引き寄せてきつく抱きしめた。
「大丈夫だ。お前の魔法は、きっとお前の大好きな奴に届く。俺を、目覚めさせてくれたようにな」
「メロウ……」
「ありがとう。……お前なら、絶対に大丈夫だから」
 優しいぬくもりと共に、メロウの声は次第に遠ざかっていった。


 目を開けると、白い部屋は淡いオレンジ色に染まっていた。
 その中で眠る調をぼんやりと見つめた私は、ゆっくりとさっき聞いたばかりの「彼」の言葉を胸の内で唱えた。
 大丈夫。私には、魔法があるから。
 こくん、と息を一つの見込み、私はそっと口を開いた。

「調……世界で一番ーー大好きだよ」
 
 唇に微かな熱を残して放たれた言葉が、眠り続ける彼へ吸い込まれていく。
 そして、数秒を置いた後、彼の瞼がひくりと震えた。
「調」
 私の何度目かの呼びかけに、ようやく調がその瞼をゆっくりと開けたのだった。

百回目のまほう 中編

※いきなり始まります。初見の方は前編からどうぞ。

 歩けど歩けど暗闇ばかりで、目の前を歩くメロウの提灯の光だけが頼りだった。
「ま、待って、もうちょっとゆっくり歩いてよっ」
「……」
「ねえってば」
 黒いフードの先を掴んで引き止めようとすると、すかさず振り払われる。
「俺に触るな」
「う……」
「あと、ついて来んな」
「そ、そんなこと言わないでよぉ……」
 容赦ないメロウの言葉に、思わず半べそをかいてしまう。メロウはあのへらへら笑ってヘタレな調と同じ顔なのに、性格は全然違うみたい。そんなもんだから、私は調に対して出せていた強気な自分が引っ込んでしまって、代わりにどんどん弱くなっている気がする。暗闇も独りぼっちも嫌だもの。冷たいメロウの言葉も好きじゃないけれど、暗闇や独りぼっちよりはマシ。涙を懸命に呑み込んで、おずおずと彼の後をついていく。
 ふと、メロウが立ち止まった。
「え、な、何」
「うるさい」
 メロウが辺りを見回し始めた。辺りって言っても、暗闇ばかりで何かがあるようには見えないのだけれど、そう言えばさっきからまたあの変な寒気がするような。
 と、私の目の前でひらり、と何かが横切った。
「きゃああっ?!」
 思わずメロウにしがみついて叫ぶ。ああ、ひゅうひゅう耳元で変な音がする! 何かいる! こわごわと薄めを開けて、その音の主を何とか確かめようとすると、そいつはゆらり、とメロウと私の前に現われた。
「ぬ、の……?」
 トイレットペーパーみたいな白くて長いものがゆらゆら浮かんでいる。何だろう、こんな妖怪、どっかで見た事ある気がする。確か一反木綿、だっけ? でも特に顔もないから怖くな……いやいや、ウソウソ、怖い、いっぱいいる! 
「あ、あ……」
 力が抜けて、その場にぺたりと座り込んだ瞬間、隣のメロウがいきなり走り出した。
「え、ちょ、ちょっとおおお! 置いてかないでよ!」
 私もたまらず彼の背中を追う。すると、あの一反木綿みたいな奴もひゅるる言いながらついてきた。いやー!
「やだやだやだー! 来ないでこないでええ」
 あいつら結構速い。もう追いつかれた、そう思ったら、意外にもその白い体は私を横切って行った。
「え」
 奴らが追いかける先にあったのは、未だに逃げ続けるメロウの背中。
 狙いはメロウ? 何で。
 と、メロウが派手に転んでしまった。彼の手から提灯が落ちるが、炎は消えなかったみたいで遠くからでもその輝きがはっきり見て取れた。
 そのメロウの頭上で、一反木綿たちがくるくる回る。その内の一匹が、その先っぽをメロウの首筋に伸ばして行った。
「……っ、だめええ!」
 私は自分でもびっくりするくらい速く走って、メロウの体に飛びついた。すると、一反木綿たちがざざっと身を引いた。
「……重い」
「あ、ご、ごめんっ、でもちょっと待って。こら、あっちいけえ!」 
 ぶんぶん腕を振って一反木綿たちに威嚇すると、意外にも奴らはどんどんと身を引いて行き、やがて暗闇の中にふっと姿を消してしまった。
 ……なあんだ、案外ちょろかったな。
「はー……」
「……おい」
「え」
「重い」
「あ、ご、ごめんっ」
 ずっとメロウを下敷きにしていたことに気づいて、慌てて身を引く。メロウはむすっとした表情ではあるけれど、どうやら怪我はしてないみたい。良かった。
 安堵したのも束の間、メロウは落ちていた提灯を拾い上げると、何事もなかったかのように歩き出した。
「あ、待ってってば」
「……ついてくるなと言ったはずだ」
「……意地悪」
「何とでも」
 ふんと顔を背けるメロウ。何よ、少しくらいありがとうって言ってくれてもいいじゃないの。でも不思議だな、こんな光景、どこかでも見た事がある気がする。
『許してよ、律』
『知らないっ』
『もう、律ってばー』
 私を懸命に追いかけて来て、にこにこしながら謝る調。そんな彼に私はいつも冷たくそっぽを向いていたっけ。
 ああ、そっか。今の私は調と同じ立場なのかも。どんなに追いかけても冷たくあしらわれる気持ち、こんなにちくんと痛むものだったんだね。なのに調はいつも私ににこにこして話しかけてくれた。私にはもったいないくらい、素敵な幼馴染みだったんだ。
 ふと、前を歩くメロウがちらりとこちらを見た。私が答えるように首を傾げたけれど、何も発さずに再び目線を逸らしてしまう。辛いけど、いいや。ひとまずは彼を守れただけで良しとしよう。
 考えを切り替えようと、彼の隣に並ぶ為駆け出した途端。
「ひゃああっ?!」
「!」
 足がいきなりぬめり気のあるものに絡めとられ、そのままずぶずぶ沈み出したのだ。慌てて足をばたつかせても、少しだけ沈む速度が落ちただけで体はどんどん下降する。下を見ても闇が広がるばかりでそこに何があるかさっぱり分からない。
「た、助けてー! いやあああ!」
 得体の知れないものへの恐怖に半べそどころか本格的に泣き出した私の頭上に、ふわりと柔らかな光が現われた。すると、ぬめぬめしていたものが急に体中から引いて行って、自由になった私の体はそのままその場に横たわった。
「ふえ……?」
「間抜け」
 そんな私を、提灯の光を手向けたメロウが見下ろしている。
「これ、やる」
 言いながら提灯を軽く揺さぶると、その隙間からふわり、と手のひらサイズの炎が零れ落ち、私の頭の上にゆっくりと落ちて来た。そっと指先でそれに触ってみたけど熱くない。
「それがあれば、さっきみたいなことにはならない」
「本当?」
「……嘘を言って、俺に何の得があるんだ」
 メロウは相変わらずそっけない。だけれど、私の顔をじっと見つめて何か言いたげにも見えた。
 ひょっとして、心配してくれたのかな。
「あ、ありがとう……!」
 嬉しくて濡れた頬をそのままに笑ってお礼を伝えると、メロウは少しだけ居心地悪そうに目線を逸らしてしまった。
「別に。さっきの借りを返しただけだ」
「それでも、嬉しい。ありがとう、メロウ」
 メロウから貰った炎を胸元に抱きしめ、私はもう一度お礼を伝えた。
「……いつまでそこに蹲っているつもりだ。置いて行くぞ」
「あ、そ、それはだめ! 待ってよお!」
 歩き始めた彼を追いかけ、私も小さな炎を胸にその背中を追いかけて歩き出した。

 それからも、私たちの前に一反木綿は何度も現われて、その度に逃げるメロウばかり追いかけた。奴らに対してメロウが反撃することはできないみたいで、彼はただひたすらに逃げ惑うばかり。だけど、私がそんなメロウの前に進みでて奴らを牽制すると、何故か嘘みたいに姿を消して行った。
「お前、どうしてそんなことができる?」
「どうしてって聞かれても困るんだけど……分からないよ」
「……ふうん」
 一度メロウにそんな風に問われたこともあったけれど、私が奴らを追っ払えるからか、以前のように「ついてくるな」とは言わなくなった。それどころか、時折私を不思議そうに見つめる瞳がくすぐったく感じた。メロウ自身は何も言わないけれど、彼の中で少しだけ私に対する信頼みたいなものが生まれているんじゃないかな。調にそっくりな彼に僅かでも好意みたいなものを持ってもらえることは嬉しい。メロウが調じゃないのは分かっているけど、調が「大嫌い」と言った私を許してくれているような、そんな気がしたから。
ーーこの夢は、いつ覚めるんだろう。闇ばかりで怖い世界だと思っていたけれど、メロウと一緒だから「現実」よりも悲しくないし辛くない。彼が目指しているところまで、できる限りついていきたいな、と隣を歩きながら思っていた。
 そんな、ある時。
「……あれ」
 その輝きが弱くなっていることに最初に気がついたのは、私だった。メロウの提灯の中に収まる光が、まるで切れる直前の電球のように微かに点滅を始めたのだ。
「メロウ、炎が……メロウ?」
「っ」
「メロウ!」
 メロウに伝えようとした途端、彼の体が大きく揺らいでそのまま闇の床に倒れ込んでしまった。慌てて抱き起こしたけれど、その体は恐ろしいほど冷たくなっていて、私の背中に嫌な汗がたらりと流れて行く。
「メロウっ! どうしたの、メロウ、返事をして!」
「……っう」
「メロウ!」
「……る、さい……何でも、ない」
「何でもないって、何でもなくないよ! メロウ真っ青じゃない! どうしちゃったの?」
 目を開けるのも精一杯、と言わんばかりに瞼を震わせる彼に懸命に声をかける。
 だけどメロウは何度も首を横に振って、最後の力を振り絞るようにぐっと私を見上げた。
「何でも、ないんだっ……俺より、炎、を」
「炎?」
「そう、炎を、守って……」
 ふっとメロウの体から一気に力が抜けて行く。
「メロウ、メロウ!!!」
 何度も揺さぶったけれど、メロウは荒い息を吐くばかりでその瞼を開けることはなかった。
 どうしよう。炎は相変わらず点滅したままだし、メロウは辛そうだ。
 いやな寒気が私たちを包み込む。とにかく、このままここにいても埒が明かない。
 私は決意すると、メロウの体を背中に担いで、床に落ちたままの提灯を手に取った。メロウは炎を守れって言ってた。この炎はきっとメロウにとって命と同じくらいに大切なものだ。今は私しか、守れない。
 でも、どこにいけばいいの。行き先はメロウしか知らない。私はただ彼についてきていただけだし、彼も教えてくれなかった。ただ闇雲に歩いても、目的地に辿り着ける可能性があるのだろうか。
 と、その時、提灯の炎がいきなりぼっと音を立てて強く燃え上がった。
「へ?」
ーーあかるいところへ つれてって。
ーーぼくが いるべきばしょへ つれてって。
 耳に流れ込んで来たのは涙が出る程懐かしいあの声。炎がめらめら燃える音に混じり、その澄んだ声が私に指差す。
ーーあっち。
「!」
 目の前に、小さいけれど光が見える。メロウの炎以外で初めて見る光だ。
 あそこが目的地。あそこに行けばいいんだ。
「調、いるの?」
 懐かしい声の主に問いかけてみたけれど、今度は何も答えなかった。
 私は背中のメロウを背負い直すと、提灯を手に光の方へ走り出した。
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