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車内の男達

ねーはとる、大切な人をずっと待っているホストと心の優しいパンクなお兄さんとのハートフルボッコな物語書いてー。 http://shindanmaker.com/151526

というお題から。

 それは、ひどく飲み過ぎた蒸し暑い六月の夜のことだった。
「おい兄ちゃん、兄ちゃんこら」
「……」
「……っち」
 肩に無遠慮に頭を預けてくる、人形みてえな面の男の寝顔を忌々しげに睨みつけながら、俺は本日四回目のミント味のガムを口に放った。酒とタバコと香水の臭いが入り混じった車内は、俺達しかない。この先は足を運んだこともない小さな駅ばかりが続いていたはずだ。終点まであと二十弱の駅がある。それまでにこの見ず知らずの兄ちゃんは俺を解放してくれるだろうか。
 全く、うっかり寝入って乗り過ごした上に見知らぬ男に寄りかかられてるとはついてない。これもシンの野郎が飲み屋ハシゴしてえとか騒ぎ出したせいだ。くそ、あいつ次会ったらメロンパンしこたま奢らせる。金欠だからとか知るか。
「……ん」
「……おい」
「……」
 おい、兄ちゃん、唸るだけかいな。いい加減目ぇ覚ませや。
 この辺り、アンタみてえな白スーツにジャラジャラ鎖をぶら下げた「都会人」の店なんか一軒もねえぞ、多分。
 しかし、男は頭の位置を少し変えただけで、起きようとはしなかった。
 ったく、どんだけ寝るんだよ。
 色素の抜けた長い毛先を振り払いながら、ふと、その白く長い指先にあるネイビー色の紙が挟まったポケットティッシュを見る。「ホストクラブ・エックス」。ふん、ホスト、ねえ。従業員なのか、それとも求職中か、そんなん知ったこっちゃねえが。
 電車の振動と共に揺れる胸元のチェーン。ちゃりちゃり煩いのはその先端にごつい指輪をぶら下げているせいだ。イニシャルは「R」。別に直視してるわけじゃない。この俺とは違う世界に住んでいそうな見ず知らずの兄ちゃんしか見るもんないしな。
 ホストねえ。女っちゅう面倒極まりないもん相手にする商売の何が面白いのか、理解に苦しむな。感情を発散させないと生きて行けない俺とは対象的に、あいつらは心の底を綺麗な面で隠すんだろ、多分。そんなん、楽しい訳があるか。ひたすら心に泥が溢れ返って、気がつけば取り返しのつかないことになるだけだ。
 この兄ちゃん、確かにホストみてえな外見だが、時折眉を寄せるその顔は既に地獄の底で苦しんでるみてえに見える。
「う、ぁ……」
「おい、兄ちゃん」
「り、さ……」
「ああん?」
「……待って……」
「知るかいな」
 はよ起きろ。
 そう思うなら無理矢理にでも起こしたらいいじゃないかと思うかもしれないが、こいつの苦悶顔を見るとつい手が止まってしまう。俺の一振りでこいつはあっさり闇のソコへ沈みそうな、そんな変な予感までしちまって。ったく、らしくねえ。
『まもなく、ーー川、ーー川。お降りのお客様はお忘れ物のないよう、ご注意下さい』
 ああ、畜生。
 車内アナウンスを聞いても地獄から這い上がれず苦しむ男の顔を肩に乗せ、俺は味気のないガムを苛立たしげに噛み締めた。

 最悪な、夜だ。
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