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魔法使いのお伽噺 眠り王子のお相手2

 ブレスがリングと下の義姉の話を聞いたのは、とある日の昼下がりのことだった。
 丁度その時彼女は、継母に頼まれた買い物を上の義姉のドレスを無償で譲り受けることで引き受け、渡された籠を振り回しつつ街路を歩いていた。
「ったく、あのばあさんのお使いとかうざいすぎ」
 そばかすがやや目立つものの、それ以外は愛らしい顔立ちのブレスから出た言葉は、周囲が思わず耳を疑い振り向かせるほどのギャップがある。
 ブレスは幼い頃に母を、そして再婚後、父を亡くした薄幸の少女である。しかし、その割に自由に生きているのは、気の弱い継母、態度は大きいが、小心者の長女、そして体が弱く、優しい次女の存在があったからだ。気性が荒く口の悪いブレスに肝を冷やした二人(次女は特に何も思わなかったようだ)は高圧的でずる賢い彼女に逆らえず、ただ頭を下げる羽目になった。父親が亡くなって、好き放題の生活を送れると継母がほくそ笑んでいられたのは、過去の話である。
 さて、そんな彼女が丁度見かけた花屋の店員・リングは、ここ最近、姉と積極的に交流している愛想の良い娘だ。どんなに金持ちの娘だろうが、または貧乏な娘だろうが、彼女は区別することなく接する。貧富の格差が激しいこの国で、彼女はかなり風変わりな存在として有名だ。リング自身は他の国からやって来た浮浪娘なのだが、兄がこの国の王子の側近をしているため、生活に苦労はしていないようだ。ブレスはリングを嫌っているわけではなかったが、義姉ほど親しいわけではない。今日も花屋の前で楽しげに談笑する彼女ら二人を見て、積極的に会話に関わろうとは思わなかったのだが。
「……王子?!」
 義姉・バレッタの心底驚いた声に、ブレスの耳がぴくりと反応する。
「し、一応ないしょ話だから声は小さくね」
「あ、ごめんなさい」
 リングは辺りを見回しながらバレッタを制する。ブレスは咄嗟に近くにあった肉屋の看板に身を潜めた。
 そのブレスに背を向けているバレッタは、栗毛の頭をリングと同じく左右に動かすと、再び友人に向き直る。
「でも、何故?」
「このままだと王子が成人しちゃうからでしょうね。この国の王族は成人になると同時に結婚するんでしょ?」
 兄から聞いた情報を思い出しているのか、片目をぎゅっと瞑るリング。バレッタも栗色の頭を傾けつつ頷いた。
「成人の十五歳を迎えると、婚約者を確定して成人の議の時に国民に公表するんですって。私は見たことないけど、盛大なセレモニーなんだとか」
「王子、あと数ヶ月で十五歳だもの。お兄ちゃんが焦るのも無理ないわけ。普通なら決まっていても、女の子とコミュニケーションしたことない王子は、そういうわけにもいかないし。許婚もいないのよね」
「この国の王族は個人の恋愛を重んじるそうよね。とても素晴らしいこととは思うけど」
「とにかく、バレッタ。貴方さえ良ければ王子に会ってくれない? 会ってお話するだけでいいから」
「うーん……」
 バレッタは少し俯いて、何かを考えている。
(義姉さんの考えることなんて大体想像つくわね)
 ブレスは肩をすくめて、バレッタの態度に困惑した様子のリングを見た。
「バレッタ、ダメ……かな。あ、もしかして誰か好きな子でもいるとか?」
「い、いいえ、まさか……私に連れ添ってくれる男性なんて夢みたいな話だし、ましてや王子さま……」
 でも、と俯いていた顔を上げる。痩せた顔はあまりぱっとしない。目が細く小動物のような顔。可愛らしいとも美しいとも言えないが、彼女の優しい性格が滲み出るような笑顔、気さくな態度をリングは気に入っている。 なかなか女性と話ができない王子の為、またこの女性的魅力を兼ね備えいるのにも関わらず、男性に恵まないバレッタの為、リングは何としても彼女を候補に選びたかったのだ。
「私、つり合わないわ。顔に自信ないし、体だって弱いし。ブレスからも弱虫呼ばわりされちゃうし」
「ブレスは口が悪すぎんのよ、あれは無視無視」
 飾り気のないリングの言葉に短気なブレスはむっとなるも、彼女の中に占める考えを思い出し踏み止まる。
「貴方、誰からも好かれるような素質あるのよ。自信持って。それに美しさにも色々基準があるじゃない。みんながみんないいって思える美はないと思うし。自信持ちなさい。あたしにとって、バレッタは可愛い自慢の友達なんだから」
「……ありがとう」
 バレッタがやや泣きそうな声で言うと、リングが笑って頷いた。
「どうする? あたしは別に無理にとは言わないわ」
「貴方の言葉を信じて、行ってみようかしら」
 ホントに? と目を丸くしつつも喜ぶリングに、バレッタは縦に首を振る。
「是非、会って。きっとあんたと気が合うと思うわ」
「そうだといいけどね」
「そうに決まってるでしょ! 間違いないって。早速お兄ちゃんに知らせなきゃ」
 気合いが入りすぎたのか、リングが手にしていたポピーの花束がぐしゃりと悲鳴を上げた。
「あーー! ゴメン!」
「あらら」
「もっかい包み直すね……」
「いいわよ、リング」
「だめ! うちのお得意様にこんなぐしゃぐしゃの花束渡すわけにはいかないわ。すぐ済むから待ってて」
「ふふ、ありがと、リング」
 リングが店先から消えるのも見届けることなく、ブレスは立ち上がり何事もなかったように歩き始めた。
「……王子」
 そう呟く彼女の表情に、微かな冷笑が浮かぶ。それはいつものように人を小馬鹿にするのではなく、何か思惑を含んだものだった。

「お義姉さま」
 バレッタが綺麗に包み直された花束を抱えて帰宅すると、ブレスがにこにこと人懐っこい顔で迎えた。バレッタはいつもの笑みを浮かべて義妹に近寄る。
「ブレス、ただいま。嬉しそうね、どうしたの」
「残念……その逆なのよ、バレッタお義姉さま」
「あら、どうかしたの?」
 するとブレスは周りを伺うようにキョロキョロとし始めた。笑顔も途端に元気をなくしたので、バレッタはあら、と顔をしかめる。
「ブレス、私の部屋へ行きましょう。ここじゃ、少し話しづらいでしょ?」
 肩に手を置いて自室に導くと、ブレスも抵抗することなく付いていった。

 可愛らしいポピーを飾りながらブレスの話を聞いていたバレッタは、顔を曇らせた。
「まあ、なんてこと……」
「言うこと聞かなきゃ無理やりにでもって言うのよ。あんまりだわ、あたしの気持ちなんてまるで無視なんだもの」
 鼻を鳴らすブレスに、バレッタはハンカチを手渡す。義姉を見上げた彼女は、らしくなく顔を涙で濡らして落ち込んでいた。
「どうにか、そのお肉屋さんの求婚を断らないとね」
「でも、すっごくしつこいの……もうあたしの手に負えないくらいに」
 深々とため息をついた義妹に心優しいバレッタは、決意したように顔を上げてその頭を撫でて励ます。
「大丈夫よ、ブレス。あなたには私が付いてるから」
「でもお義姉さまにご迷惑をかけるわけにいかないわ、血の繋がりもないのに」
 その言葉は、決定打だった。バレッタは真剣な眼差しになると、首を振った。
「そんなの関係ないって言ってるでしょう? 私たちは姉妹よ。誰が何と言おうと、私の妹。そうでしょ?」
「お義姉さま……」
「私が説得するわ。第三者が入れば、お肉屋さんも落ち着いくれるはずだわ」
 だから大丈夫、と義妹を優しく抱き締める。ブレスも涙ぐみその体に甘えた。
 こうして一見微笑ましい姉妹愛が展開されたように見えたが、実は別の意図が含まれていることに、ばか正直でお人好しのバレッタは全く気付かなかった。

 しかし、城内にいたピアスも、ふと予感を感じさせる出来事に遭遇していた。
 すやすやと安らかに眠るピアスの傍で、静かに銀色に輝く彼の腕の那がさほどの杖を取り出した。これを振るのは王子が寝ている時のみ。それ以外はこの国で普通に生活する上ではまるで役に立たない。
「我らを守護するトゥース(真実)の者よ、どうかカフス様にそのご加護を」
 暖かな光が王子を包み込む、のはいつも通りだったが、不意にピアスの耳に何かが聞こえてきた。
『真実を手にしたければ、彼の者に近づくものから偽りを排除せよ」
光が止み、床に落ちていたものを拾い上げると、ピアスは顔を曇らせた。
「偽りが、王子に迫っている、ということか」
 王子が肌身離さず付けているブローチと同様、そこにはトゥースの象徴であるアヤメの刻印がある。そのブレスレットを懐にしまい込むと、ピアスは何も知らずに眠る王子に不安げな視線を向けた。

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眠れる王子様と…

ずーっとお蔵入りしていたお話を続き物として公開することに決めました。眠っちゃう王子さまのお相手を見つけるお話です。タイトルの「魔法使い」な要素は今のところ皆無ですが、後半で出せるかと思います。
実はかれこれ数年ほど暇な時に携帯を弄って書いていたお話です。この眠り王子の他にも登場人物が異なるお話がいくつかありますが、何せ思いつきで書いているので、まとまりがなさすぎてすぐに公開できないレベルなのです。ですが共通主人公であるピアスたちが結構お気に入りなので、何とか形を整えて今回同様に公開していけたらなあと思う次第です。
らのべ杯に作品を無事出せたものの、まだ挑戦したいお話を水面下で書いている関係で常に時間とプロットに追われている毎日です…ちょくちょくピクシブなどで色んな方のお話を読ませて頂いて癒しをいただいているのですが、正直24時間じゃ足りない。足りないです!あと一つのお話につき自分が一人ずつ付けられたらどんなにいいか…と叶わぬ妄想をしてしまいます。そんなことしている間にも残酷にも時が過ぎてしまうのですが、とほほ。
それでは今回はこの辺りで。また来週もよろしくお願いします。

魔法使いのお伽噺 眠り王子のお相手1

 その日は、カフス王子の人生最良の日になるはずであった。そのために彼は普段着ない上等な絹で作られた肌触りの良いブラウスに袖を通した。嫌みな叔父から贈られた鳩の形を型取ったブローチもした。肌の手入れもした。匂いも薔薇の香水を振りまいた。
 彼の顔には、悲しみとも怒りともつかない複雑な表情が浮かんでいて、傍に控えていた側近・ピアスは彼の前に進み出るやいなや、
「王子、申し訳ありません」
 額を大理石の床にぴたりと付け、物悲しそうな声で表情を変えない王子に謝罪の言葉を繰り返していた。
「このような事態になってしまったのは、舞踏会を王子に提案した私、ピアスの責任でございます。どうか、私めに罰をお与え下さい」
 土下座するピアスに、周囲の大臣たちは顔を見合せる。ピアスは普段冷静沈着な男で、このような緊迫した声を出すことなどなかったのに、と。
 彼の提案が、失敗すること。それは城中の誰もが予想できていた。花嫁の来ない王子に候補を見つけるための舞踏会を開く。それは幾度も行われてきたことだが、成功した試しは未だない。
 当の王子自身が、こうしてピアスが提案して開かれたこのパーティー以外無断欠席していたからだ。
 女たちが幾ら多く集まっても、王子はいない。失望した女たちの間で、いつしか王子に関する根も葉もない噂がたち、見向きもされなくなってしまった。主催した王子本人が出て来ないだから自業自得の部分もある。しかし、出て来れない王子の事情を知るピアスたちは、彼が哀れでならなかった。
「自分を責めるな、ピアス。君は頑張ってくれた。心から感謝している」
「王子、それでは私の信条に反します。臣下が主を欺いたら、相当の罰を受けるべきだと思っております」
「ピアス、大げさな」
「大げさなどではありません、王子。普通です」
「……」
「王子」
 遅かったか、とピアスは体を起こし、椅子の上でぐったりしている王子を担ぐ。周囲の人間もまた暗い表情を浮かべて、やはり結婚は無理かとため息をついた。王子が次に目覚めるのは明日の夕刻くらいだろう。何せ普段は寝ている時間に起きて、眠りにつかないよう耐えていたのだから。
 これこそが、カフス王子が結婚相手を見つけるための舞踏会に参加できない理由であった。

 カフスの睡眠欲の旺盛さは、彼の幼少に原因がある。今は亡き王妃が大変な夜更かしだったからだ。
 人生、楽に生きなきゃ。
 体が弱く城に籠りきりだった王妃はその言葉を口癖にし、夜明けまで自分の友人から家来などとどんちゃん騒ぎしていたという。それが原因だったのかはさておき(その話を聞いたピアスは、間違いなくそれも原因の一つだと思い呆れたが)、王妃は早くこの世を去っていき、物心つかないカフスが残された。王妃の夜更かしに付き合わされたカフスは、まるでその分を取り返すかのごとく寝始めたのだった。
「なるほど、だから結婚相手が見つからないのかあ」
「ああ」
 ココアを妹のリングから受け取り、ピアスはさてどうしたものかと首を捻った。
「いっそぶん殴って強制的に起こしたら? 相手が王子さまだからやりづらいかもしれないけど、お兄ちゃんを信頼してるならさ」
「あの方は、どんなに乱暴な真似をしたとしても起きることはない。何なら金貨二十枚賭けてもいい」
「あたしたちの生活費の半分並みね。そりゃ手強い」
 口調は明るかったが、リングの表情には苦々しさが含まれていた。その顔を見て改めて自分には重大な役割があると思い知る。
 王子も願い、城の人間も願っている結婚と跡継ぎ。王子に一番近いところにいるのは、新人ながらも王子の信頼を得ているピアスだ。ピアス自身も、王子により良い地位や見合う報酬を与えられている立場であり、その恩を一日で早く返すことを望んでいた。王妃の言葉ではないが、やれるときにやっておかねば後悔する。ピアスにとって今しかできないことだ。
 眠ってはしまうものの、カフスは決して何も考えていないわけではない。彼自身も克服したいと願っている。今回の舞踏会で唇を噛み締めて懸命に耐えていた王子を見れば、誰にでも分かること。ましてや、カフスの傍に常に控えるピアスには痛い程分かることであった。
 あれはいつだったか、一冊の恋愛小説を使って学んでいた時のことであった。 王子が起きていられるのは、昼間の三、四時間程度。その貴重な時間にピアスは彼に教養を教えていた。
「なあ、ピアス、将来私は結婚できると思うか?」
その頃ピアスはまだ勤めて間もないことだったが、既に様々な出来事を経て王子の問題は理解していた。王子を見れば今にも眠ってしまいそうなほど目がとろん、としていたが、どこか寂し気であった。
 ピアスは暫く迷って、
「王子はできた方ですから、女性が放っておきませぬ」
 と答えた。
「寝てばかりなのにか?」
「しかし、いずれは」
 次第に声が小さくなるピアスに、王子は優しく笑う。
「私も分かっているのだ。今の状態ではダメだと。私の問題がある限り、結婚はおろか、話をするのさえ危うい。未だ、女など、母上や侍女しか知らない、世間知らずだ」
 それにと真新しい小説の飾り気のない表紙をなぞり、
「私は誰かを好いたことがない。だから、この本を読んでも何も共感できない。そんな私は寂しい人間だと思うか、ピアス」
 ええ、とても。簡単にそう告げることはできなかった。せめてそのときの王子に鏡を渡して、その寂し気な目を見てもらいたかった。
「私には貴男の目が、寂しそうに見えます。王子」
 ピアスは胸が張り裂ける思いでそう告げたが、やはりカフスは寂し気な目を伏せて笑うだけだった。
 このままでは、いけない。彼には誰かしら必要だ。
「お兄ちゃん?」
 リングがきょとんとピアスを見つめていた。
「すまん。……そうだな、王子とて、恋する相手が現れれば夢中になるだろう。まだ恋も知らぬ若者だから尚更だ。恋が目覚める時間を増やすきっかけになると思う」
「恋ねえ。でもどうやって? そもそも王子は舞踏会に出られないのよ」
「そうだな、今回の一件で暫く舞踏会は自粛が決まってしまったし、お忍びで会わせるように手配するか……それに誰に会わせるかも考えねばならん」
 王子の身分に釣り合う娘と言うと、当然大富豪に限られてくる。だが、カフスを大切に思ってくれる者であれば、いざとなれば身分の違いなど自分が尽力することで周りを説得したいとピアスは考えていた。
「リング、お前は町の娘たちに通じている。お前の力で何とか娘たちを私のところに連れてきてくれないか?」
「一体どうするつもり?」
「お忍びで会わせる。たとえ中に意に染まる娘がいなくとも、娘たちと多く接触すれば王子も、理想の方を見つけられるはず。だから、一人でも多く集めてくれないか。王子が目覚めている間に、会わせたい」
 リングも納得したように頷いたが、ふと真顔になり、
「王子さまに会わせるんだから、品行が良くて美人じゃないとだめよねえ」
 妹の言葉にピアスは楽しげに唇の端を上げた。
「構わん。醜かろうと美しかろうと王子は女性をご存知ないお方だ。色んな経験をなさるのも良いだろう」
「でも、いいの?」
「お前、知ってるか? 先の王妃は周囲が驚くほど出っ歯であらせられたのだ。だが夜更かしの件はともかく、母性に満ちた優しい母上だと王子がおっしゃられていた。故に見た目がその中身を左右するものではないと、あの聡明な王子は分かっていらっしゃる」
「なるほどね……じゃあお兄ちゃんも王子さまも驚かれるくらい、色んな女の子を選ばなきゃね」
「ああ、期待してるぞ」
 自信ありげに微笑む妹を頼もしげに見つめ、ピアスはココアをすすった。

 妹のリングは、兄と暮らしている部屋がある花屋の店員でもあある。城でほぼカフスに付きっきりのピアスよりも娘たちと接する機会が当然多く、また頼り甲斐のある性格から娘たちからの信頼も厚い。娘たちと楽し気にお喋りする妹を見て、ピアスは安堵を覚えつつ城へ向かった。
 カフスやその他の家臣たちには何食わぬ顔で接しつつ、リングが連れてくるお見合い相手の娘を考えた。自分の相手ではないが、あのカフスに見合う女性は一体どんな人だろうか。そう思うだけで、自然と気持ちが高揚してくる。
 そしてその晩、帰宅したピアスに娘探しのことを問われたリングは、自信有りげに頷いてみせた。
「アンクレット嬢が、会ってもいいって。年は王子より一つ上で、ちょっと世間知らずだけど、美人よ」
 あたし頑張ったわよ、と胸をはるリングに、ピアスも顔を綻ばせて褒め称えた。
「良くやった。流石だな。恩に着るぞ、リング」
 リングの言うアンクレット家は、王家に通じているから尚更都合がいい。 リングの言う娘はその末娘だ。
「これで何とかなるかな」
「それが一番いいに決まってる。が、断言はできん」
 娘はよくとも、王子がどうなるかは分からない。
 そんな少々の不安を残したまま、ピアスは翌晩、リングに手引きしてもらった娘・ベルと顔合わせし、密かに彼女を城に招き入れた。
 リングの言った通り、ベルは人形さながらの非の打ち所がないほどの美しい顔立ちをしていた。やや足ががに股であるが、紺のスカートが大体脛辺りまで隠してあるので気にならない。
 話し方も穏やか……というよりも間の抜けた感じが否めなかったが、まあ何とかなるだろうと目を瞑った。
「夜分遅くに申し訳ございません。ご協力感謝いたします」
 畏まった口調で一礼するピアスに、ベルはおっとりと微笑んで会釈した。
「いえいえ、とぉんでもございませんわぁ」
 おほほ、と高い声で笑いだしたのを見兼ねて、リングは突然彼女の口を塞いだ。
「お忍びなんですから、静かにしてね、ベルさん」
「では、参りましょう」
 しかし、ベルと対面しカフス子は、肝心の話の直前に眠り始めてしまった。いつもならばもう少し長く起きていられるはずだったのだが、何度揺さ振っても、カフスが夢から覚めることはなかった。
 唖然とする兄妹をよそに、ベルは「あらまあ、王子様は根性がお有りでないのね」と、またもや暢気な笑い声を立てるばかりであった。
 何とか数時間後に目覚めたカフスに感想を聞いたものの、早く眠りについたため、ベルの顔を全く覚えてないと言い放ち、ピアスは思わず頭を抱えた。
「王子、何故早く眠ってしまわれたのですか?」
 翌日の勉学の時間に尋ねると、カフスは眠そうな眼を擦り、
「いや、お前から話を聞いたら、楽しみのあまり眠れなかったのだよ。そしたらまさか本人を目の前にして眠ってしまうとは……すまなかったな、ピアス」
 ピアスは目を見開いた。眠れなかったほどに王子が楽しみにしてくれたとは。それだけでもこの作戦を行った意味はあったのだ。
 すると、先ほどまでの落胆した気持ちなど吹き飛んでしまい、ピアスは満面の笑みで、カフスの手を取る。
「王子、次の方を連れて参ります。明晩にでも」
「昨晩の女性は?」
「……ああ、あの方はご都合がつかないそうなので、またの機会に、だそうで」
 やや詰まったように言うと、強引に勉学に話を戻した。ベルが多忙で会えないのは本当のことだったが、その用が他の男性とのお遊びと聞いて、幻滅したからもう会わせたくない、というのが密かな本音だった。
 リングにも伝えたように、容姿端麗でなくても構わない。誠実でカフスの意に染まる者ならば逢わせたい。
 眠気と戦いながら万年筆を動かすカフスを見守りながら、リングに候補の条件を追加して探してもらおうと考えた。

 偽りのない心で、彼を受け止めてくれる女性を、と。

ちょっぴり予定変更

ピクシブにアップした「イイナヅケ」関連のお話を上げました。ピクシブにアップした物は、結果発表が出た頃にまた色々付け加えてアップかなーと思います。ラノベ杯、色んな作家さんのお話を拝見してますが、面白いです!答えというテーマで様々な作家さんから様々なお話が生まれる、創作をする者としてはたまらなく刺激を受けますね。まだまだ未読のお話もたくさんありますので、そちらもちょくちょく拝見していきたい所存でございます。
今回の「イイナヅケ」に関しての裏話を語りたいところではありますが、こちらにまだアップしてない関係もありますので、語りはその時までにとっておきます。
ではまた来週に。

兄のイイナヅケ

※一応単独でも読める仕様になってるといいな(希望)。これに関連するお話をラノベ杯に出しました。出したお話は後日こちらにもアップします。





「ねえ新。新は良太のことが好きなんだよね」
 不躾なその言葉に、私は酷く狼狽した。全身の血という血が頭に上って爆発しそうだ。
 歩はそんな私をへらへらと笑いながら見ている。
「あ、顔赤い」
「っ、な、そんなことない!」
「別に隠さなくてもいいんだよ。好きなら好きで応援するし」
「だから好きじゃないってば」
「頑張れ、新」
「っ歩!」
 私が力一杯怒鳴っても、歩はけらけら笑うばかりで、ますます苛立ちが募る。
 違う、そうじゃない。
 私はアンタの「イイナヅケ」のことなんて、これっぽっちも思ってなんか。
 そう自分に言い訳しているうちに、私の兄であった歩は突然消えてしまった。幼馴染みで「イイナヅケ」という名の親友だった良太の隣から、こつ然と。




兄のイイナヅケ


 お通夜の間、私は描きかけだった「歩の絵」を仕上げていた。歩がどうしても描いて欲しい、一生のお願いとか言うから描いたけど、あのへらへらした感じがどうしても出なくて難しい。
 顔のパーツは私とほとんど同じなのに。
 そのことが昔から私のコンプレックスでもあった。
『あら歩くん、こんにちは、一人? 良太くんは一緒じゃないの?』
 近所のおばさんに何度この台詞をぶつけられただろう。スカートを履いていても、髪留めをつけていても、私は兄の歩に間違えられてばかりいた。それだけならまだしも、「良太は一緒じゃないのか」という台詞までセットで聞かれるから余計嫌だった。
 その内面倒になって、「良太んちこれから行くんだ」なんて歩のフリまでしてみせたけど、空しいだけだった。
 何で歩ばっかり。
 良太が歩の「イイナヅケ」なのも、不満だ。
 「イイナヅケ」とは、私のお母さんと良太のお母さんがお互いに子供が生まれたらその子達を結婚させる、という他愛無い約束をしていた、というお話から、良太たちが作った言葉だ。いつも一緒で親友の二人は、「イイナヅケ」という言葉を作ることで、お互いだけの世界を作っていたのだ。
 私は、「イイナヅケ」という言葉が好きじゃない。
 その言葉一つで良太と歩をひとくくりにして、私はそこに決して入れないようにするからだ。「新の場所はここにはないよ」と良太の隣にいる歩から牽制されている、そんな気分にさせられる。
 何が応援するよ、だ。いつも当たり前のように良太の傍にいる歩なんかに、私の気持ちなんか理解できるわけないんだ。いなくなったって、同じ。
 私は「歩」にも「イイナヅケ」にもなれない不良品、そんな私の気持ちなんか。
 感情が昂り、歩の絵が心底憎たらしくなってきた。こんな絵、もういらない。鉛筆を置いて「お絵描き用」の算数ノートに描かれたそのページに手を掛けた途端、背後で障子の扉の開く音がした。
「お、ここにいたか、新」
「!!」
 ノートを閉じてテーブルに叩き付けると、私は何事も無かったかのように温かい緑茶に手を伸ばす。ちびちびとそれに口をつけ始める私の隣に腰掛けると、良太は同じくテーブルにあった清涼飲料水のペットボトルを掴んだ。
「ずっと部屋に閉じこもってるから、おじさん心配してたぞ?」
 少し疲れた声。ずっとお父さんと一緒にお通夜の片付けをしてたせいかもしれない。
 もの凄い勢いで心臓が煩く喚いている。口から飛び出して、良太を驚かせてしまいそうだ。何か話さなければならないという妙な緊張感が出てくる。幼馴染みなのにこんな変な緊張感が出てしまうのは、私と良太は二人きりで話すことに慣れていないからだ。
 私と良太が話す時、いつも歩が傍にいた。歩は距離のある私と良太を繋ぐ要だったのだ。
 その存在がなくなれば、私と良太は。
「勉強してたのか、真面目だなお前」
 良太が笑う。ばか、私が勉強するわけがない。暇さえあれば勉強よりも落書きを優先させるような私が。
「歩とは違うな、お前は」
 良太が小さく呟く。
 その言葉が、何よりも痛かった。
 良太の「イイナヅケ」がいなくなって、私と彼を繋ぐものも断たれて。
 私も、そして多分良太も途方にくれている。どうしていいか分からなくて。
「……じゃ、そろそろ俺帰るわ。お前もお疲れさん」
 ぽん、と頭に置かれた温もりが悲しくて悔しくて、私は思わず振り払ってしまった。
「新?」
 驚く良太を無視して私は二階へ逃げる。
 こんなに悔しくてたまらない気持ち、歩がいた頃なんかよりも比べ物にならないくらい大きい。
 気がつけば私は歩の部屋で、クローゼット奥で眠っていた黒いランドセルを睨みつけていた。
 私は「イイナヅケ」にも「歩」にもなれない。そんなの分かり切ったこと。それでも私にとって、幼い頃からずっと見ていた特別な人は、良太だから。彼に何かを訴えるため、また生温い関係への反抗のため、「歩の真似」をすることに決めた。




「新、待てよ」
 今日も私の後ろを良太がついてくる。私はぎろりと、その歩譲りの能天気そうな笑顔を睨みつけた後、走り出す。背負った歩のランドセルがカラカラと音を立てて「歩の真似」をする滑稽な私を嘲笑う。滑稽なのは承知だ。いくら頑張っても私は彼にとって所詮「イイナヅケの妹」なんだと思って、情けなくなることもあるけど。
『応援してるよ』
 あんなに苛立ったはずの歩の言葉が、こんな私の背中を押してくれているような、そんな不思議な気持ちになるから、私は今日も「歩の真似」を止められない。

タイトル

今回の更新が終わったところでプチ雑記をば。
タイトルを考えるのがすごく苦手で、お話が一度成立してしまうとなかなか決まらない悪い癖があります。仮タイトルはかなり投げやりに付けて、ちゃんとしたタイトルを考えるので迷うと大体そのままにしてしまったり。うーむ。なので最近はタイトルから考えるか、最後まで書いて決めるか、仮タイトルをつけるのを止めることを実施中です。
こう読者さんを惹き付けるような「かっこいい」タイトルを考えるんですが…それに囚われると話が破綻しちゃうんですよねえ。なるべくなら書き終わった後につけたいんですが、これがなかなか難しい。センスがないと言われたらそれまでなので、ひたすら磨くしか無いですね。
次回のお話はピクシブで投稿したいなあと思っているお話+αストーリーを更新予定です。ピクシブアップはこちらの更新よりも早めにする所存です。ライトノベル杯に出したいので!ひたすら推敲頑張ります。

蝶々の手鞠(※女性同士の同性愛表現あり)

※今作は女性同士の同性愛表現を含みます。

続きを読む

ほしのよびごえ

※即興小説で書いたものに付け足したもの。ちょっと荒めの仕上がりです、すみません。



ーーお願い、この星を守って。みんなが愛して、私が愛したこの星を守って。

 脳内に何度も響き渡る異世界の少女の声に、明は赤紫色に染まる頭上を見上げる。鏤められた白い輝き達。ここが宇宙だなんて信じられなかった。
「この星が、俺のいた星……」
「正確には、お前の前世が慈しみ守ってきた星だがな」
 金色のキセルを銜えたまま、明の同行人を名乗るヒカルがニヒルな笑顔を浮かべて言う。長い前髪をうざったそうにかき揚げ、右手に握りしめていた懐中時計を明に向かって放った。
 浮遊する懐中時計をそっと握りしめると、冷たい刺激が手のひらの中に広がると共に脳内の声が止む。まるで懐中時計に全て吸い込まれたかのように。
「さあ、せっかくここまでやってきたんだ。初めにお前に伝えた通り、この星を守ってくれ。お前の前世であるアカツキ様もそれを望んでいる」
「守ってくれって、簡単に言うけど。俺にはそのアカツキ様ってひとみたいに世界を統治する力なんてない、ごく普通の中学生なんだけど、具体的にはどうやって守るってんだよ」
「そうだな、まずはSOSを俺様に飛ばしてきた張本人に会うとするか。奴はアカツキ様亡き後もこの星にずっと留まっている、俺の友人だ、ついてこい」
 ついてこい、なあ。
 先を歩くヒカルの後を追いかけながら、明は岩の平野だけしかない周囲を不安げに見渡す。
 自分の住んでいたところから見上げて綺麗だと思っていた星は、こうして降り立ってみると大して面白みを感じられないところのようだ。

 ところが、ヒカルの後を追いかけて数分も経たない内に大きな球状の岩が現われ、その下部にはちゃんと扉もついていた。更に驚いたのはその内部。いかつい外観と違い、中は煉瓦造りの壁に大理石のようにツヤツヤに磨かれた床が敷き詰められていて、真っ赤な絨毯まで敷かれていた。まるでどこぞの城か屋敷のような内部におののきながら進んで行くと、マイペースに歩いていたヒカルが唐突に赤茶ブーツに包まれた足を止めて振り返った。
「ここは見た目に反して老朽化が激しくてな、大きな音を出せばあっという間に崩れる恐れがある。どんなにびびっても大声だけは出すなよ」
「それって、大声出すような出来事がこの先に待ち受けてるって言いたいのか」
「人形だった俺にびびったお前ならあり得そうだからな。いいか、明、俺は確かに忠告したぜ」
 言いながら目の前の扉を開けるヒカルに、明は思わず下を向いてしまった。そこまで脅されると、扉の向こうにはとんでもないものがありそうで少し恐ろしく思ってしまう。
 だが、そんな明の不安を消したのは、聞こえてきた柔らかな声だった。

「待ってたよ、ヒカル。ずっとずっと、待ってた」
 それは砂糖菓子のような甘さを含んだ声。
 誘われるように顔を上げると、鮮やかな光の洪水がそこにはあった。
 色とりどりの花弁の中で、うっとりと微笑む小柄な少女の姿、その様子をえがいた一枚の絵画。
「よお、プリムラ。遅くなってごめんな。ようやくアカツキ様をつれてくる事ができたよ」
 ヒカルがそう囁くと、少女がふわりと笑みを深めた。
「久しぶりね、ヒカル。そしてアカツキさま。またお会いできて嬉しいわ」
「えっと……」
「無理も無いわ、だって転生されたんだもの」
 戸惑う明にも優しい眼差しを向け、プリムラは手に持った黄金色の筆先をその背後にあるキャンバスに向けた。キャンバスには彼女が描いたと思しき一人の少女のシルエットが描かれている。
「貴方達がここに来てもらったのは他でもない、アカツキ様の意思よ。時計の針を動かす時よ、ヒカル」
「そうか。……時が」
「時? 動きだす?」
「ええ、アカツキさま、貴方が生前残した転生後の貴方へのメッセージをお伝えします」
 プリムラは跪き、真摯な瞳を明に向けた。

「針を動かし、星の流れを動かして欲しい。そして、その時、私がなし得なかった星の呼び声を聞いて欲しい」
 当然ながら明にはちっとも分からず、そのメッセージを真剣な顔で伝えたプリムラをじっと見返すしかない。しかし、隣に佇むヒカルは「アカツキ」のメッセージを聞いて、明るい茶色の瞳を伏せた。
「星の、呼び声か」


「この星は、アカツキさまが亡くなった時から「時間の流れ」って奴が止まってんだ」
 本当は地球みたいに色んな文明があって、賑やかなんだぜ、とヒカルが笑いながらごつごつした地面に触れる。
「アカツキさまが止めてしまったんだ。この星に時を止めるほどの力を持っていたのは、あの人だけだ。だからアカツキさま亡き後、誰もこの星の流れを動かせていない。流れを止められていないプリムラみたいな奴もいるけど、奴らにも、無理だったんだ」
「何で、時を止めたんだ」
 しなやかな背中を見つめながら明が問いかけると、手の中の懐中時計が微かに熱を帯びた。その熱に驚くのと同時に、ヒカルが振り返って答えた。
「星の呼び声が、聞こえなくなったから」
「え」
「アカツキさまはそう言っていた」
「それってどういう意味?」
「俺はアカツキさまが星を守る力を失ってしまったんだと思っている。彼女の力が無ければ、この星の未来はない。未来がないなら、終わらないよう止めてしまうしかないと思ったんだろう。真意は、分からないがな」
 そして明に近づき、熱を帯びる懐中時計の表面にそっと触れた。
「なあ、明。守ってくれ、なんて言ったがな。お前を連れてきたのはアカツキさまの意思、そして俺自身がもう一度この星の生きる姿をこの目で見たいと思ったからだ。全て俺たちの都合でお前には関係のない世界だ。だが、このアカツキさまの力が宿る時計をお前が動かせば、お前の中のアカツキさまが目覚める。そうなれば、お前自身の自我が変わってしまうかもしれない。そういう、リスクがあるんだ」
「ヒカル……」
「俺はお前の「人形」でもある。宇宙人の都合に付き合いたくないと思うなら、俺に今すぐ地球へ帰ろうと言ってくれ」
「でも、そしたらこの星は」
「安心しろ。この力はお前がもう一度生まれ変わったとしても続くくらい強い。俺がお前をそれでもつれてきたのは、お前が俺に気づいてくれたからだが……だが、それだけで別に無理に協力してくれとは言わない。お前は関わらなくても」

ーーアキラ、このほしをまもって。
 明の頭の中に、あの少女の、アカツキの声が響く。
(確かに、前世とか転生とか星とか、よく分かんないことだらけだけど)
 それでも、明は光るににっと笑いかけた。
「ヒカル。俺の中で、もう聞こえてるんだ、女の子の声。多分、アカツキの声なんだろ。だから、もう関係ないことないんだ。それに俺も聞いてみたい。アカツキの、過去の俺が聞いて欲しいっていう星の声をな」
「……そっか」
 二人の間で、懐中時計が強い光を放つ。
 その時、星が小さく震えて、か細い声を上げた。
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