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天使の歌声

※即興小説で書いたものに+αしたもの


ああ、これが天使の歌声か。
 頬を伝う雫が、宇宙(そら)から降り注ぐ幸いの雨のように感じられる。自分の体から生まれたものとは思えないくらい、純粋なもので出来たものたち。
 天使の歌声が、私の全てを作りかえているのだ。生臭いものを小さな体に詰め込まれた哀れな生き物を、清く美しい花弁へ。ああ、神よ。人生で一度もそんなことを思った事は無いけれど。私はこの瞬間の為に生きていたのですね。

「ーー……不思議なひとですね。何故、そんなに安らかな顔で私を見るのですか」
 天使がバラ色の唇で疑問を紡ぐ。まさか語りかけられるとは思わなくて、私はわたわたと言葉を探した。言いたい事はたくさんあるような気がするのに、言葉が出て来ない。ただ、天使の不思議そうな眼差しがあまりに美しくて、体は縮こまったままになってしまう。
「言葉を、持たないのですか?」
 い、いえ、そんなことは。
「……私の言葉は貴方に届いても、貴方の言葉は私に届かない。そういうことですか」
 天使の言葉に、私はあからさまに落胆して俯いた。
 だが、そんな私に天使は再びその美しい歌声を紡いでくれた。
 ああ、やはり美しい。こんな私でも生きていていいのだと思える。いや、この天使ならば、今すぐ私をこのちっぽけな体からちっぽけな魂を取り出して、天国でも地獄でもどこでもいいから連れ出して欲しい。彼女の腕に抱かれて眠るのなら、どこにたどり着いても本望だ。
「貴方が初めてですよ。私の声を聞いてくれたのは」
 歌を止めると、天使ははにかみ立ち上がった。行ってしまうのか。
 行かないで、行くのならば私も連れて行って欲しい。
 請うように進み出ると、天使は悲しげに眉をぎゅっと寄せてしまう。
「貴方が私を好いてくれているのは知っています。でも、連れて行けません」
 どうして。
「私は貴方達のような魂を有するものを食らうもの。この体に流れるのは哀れな魂達のなれのはて。私の歌を好いてくれた貴方を、私は殺したくない」
 天使が行ってしまう。待って、行かないで!!
「さようなら、私の小さな天使さん」
 私の声を遮るように、天使は美しい紺色の衣を翻して宇宙に溶けた。

 にゃあ。
 貴方の歌声を聴き続けられるのならば、その血肉になることさえも厭わないのに。
 そう呟いたわたしの声は、自分でも驚くくらい甘ったるい色を含んでいた。
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片想いチョコレート

※女性同士の同性愛表現を含みます。




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バレンタインデー味ノベル

バレンタインデーあわせのお百合を書いてますが、本日更新間に合わなさそうなので予告だけ。
親友に片思いする女の子の憂鬱なバレンタインデーのお話。
明日更新目指してます。キリッ。

創作BL版のバレンも考えてましたが、BLなのに女の子が多くなっちゃいました。一応リーマン不器用恋愛。こちらはまたの機会にでも。
と、言っとけばきっと書くだろうという、自分への尻たたきです。

バゲット一つ、それから

 銀色やかんがぴぃぴぃ鳴り出したら、それは開店の合図。私がクルミ色のドアのつまみをくるりと回すと、カウンターで寛いでいたちっちゃな体が大急ぎで慌てて私の頭の上の三角ずきんに身を隠す。もこもこ、と忙しない赤白チェックの頭巾を両手で整えて、私はドアを開放した。
 外は、じん、と身がしまる程寒い。

「おはよう、お嬢さん」
 太鼓のようにお腹にぼぉんと響く低い声がして、お皿を拭いていた私は待ってました、と言わんばかりににんまり笑って振り向いた。
「おはよう、おじさん。今日も一番乗りだね」
「早起きだけが取り柄だからね。今日もお願いするよ」
「はい、ブルーベリージャムたっぷりサンド、ですね」
 おじさんの両手に抱えられていたバゲットを受け取ると、頭巾がまたもこもこと動いて、ぴょこんと私の頭からちっちゃな体が飛び出して来る。「ヨハネス二世」が自分から進んで挨拶をしに来るお客さんは、おじさんくらいじゃないかな。おじさんの手の肉球に撫でられると、豆粒サイズの尻尾がぶんぶん嬉しそうに震えるから。

 おじさんは、いつもお店奥の窓際のテーブルで新聞を読んでいる。でもお店に誰かがやってくる度、新聞を読む手を止めて、「やあ、おはよう」と声を掛けている。私の「いらっしゃいませ」よりも早いから、お客さんの中には、おじさんがお店のオーナーさんだと思い込むひともいるみたいだ。おじさんは私よりずっと年を重ねて背中もちょっぴり曲がっているけど、お客さんと仲良くなったりおしゃべりをするのがすごく得意だから、ある意味おじさんはこのお店の看板みたいなものかもしれない。
 おじさんが持ち込んだバゲットの表面を軽く焼いて、ざっくりまっぷたつにすると、上の棚に並んでいた赤紫色の瓶を取り出す。蓋を開けて甘酸っぱい匂いを放つそれをたっぷりバターナイフで掬い取ると、ふかふかの白い生地の上に広げた。
 紫色の輝きをバゲットの間にしっかりと挟んで、花柄のペーパーでくるんと巻いて仕上げると同時に、ヨハネス二世がきゅうきゅう、と私に何かを催促をする。ちょっと考えてからチーズの欠片を渡したら、そうじゃないと言わんばかりにそっぽを向いて、鼻先をやかんに向けた。ああ、いけない。コーヒーの存在をうっかり忘れていた。

「お待たせしました、遅れてごめんなさい」
 ヒゲを軽く揉みながら新聞を読んでいたおじさんの前に、ブルーベリーサンドとコーヒーを並べると、ちょうど窓際からうっすらと日の光が差し込んだ。この町には珍しい自然の光を受けて、ベリーがきらきらと宝石のように輝く。
「ありがとう、お嬢さん。今日も美味しくいただくよ」
「ふふ、どうぞ、召し上がって下さい」
 さくり、とおじさんの口の中で小気味よいバゲットの音が響く。お店の中では色んなひとが色んなパンを口にしているけれど、おじさんのバゲットをかじる音を聞くのが私はとても好きだった。だってとってもお腹が空くんだ。お腹が空くと、とびきり美味しいものを作りたくなって、早く次のオーダーが来ないかカウンターでわくわくしてしまう。
 そわそわする私の視界の中で、たくさんのお客さんを見つめながら、おじさんが体を丸めてゆっくりとバゲットをかじっている。こうして見比べると、ふわふわの毛並みの子供や、若い子たちと違い、年老いたおじさんの毛並みは灰色でぺったんこだ。コーヒーカップを掴む両手もぷるぷると危なげに震えていて、一口飲むのに見ているこっちがハラハラしてしまう。このお店に初めて来た時も随分年を取ったひとだなあって思ったけれど、今よりずっと背中も綺麗に伸びていて、コーヒーを持つ姿も様になっていた。

 年を取ると、どんどん弱って行く。そしてある日突然、空気になってしまったかのようにその姿が消えてしまう。それがひとが年を取った末の「さいご」なのだと聞いたことがある。私は、ずっとみんながみんなで永遠にこのままでいられるとまでは思っていない。でも、年を取って消えるという、その未来を想像できる程、長く生きている訳じゃない。それが自然の摂理なのだと教えられても、やっぱり寂しいものは寂しく感じてしまう。
 おじさんがある日突然いなくなってしまったら。寂しいに決まっている。
 だから、私は誰よりも遅く食べ終わり、トレイを戻しに来たおじさんに言った。
「おじさん、明日も来てくれるよね」
 おじさんは摘みたてのブルーベリーのような丸い瞳をぱちくりさせて、私を見た。その時、私はとても情けない顔をしていたに違いない。おじさんが口元を緩めて最初に言ったのは、「お嬢さんらしくないなあ、その顔は」だった。
「お嬢さんはこのお店の太陽なんだ。常にぽかぽかと温かく包んでくれる笑顔が私は好きだよ」
「おじさん」
「だから、笑顔を濁らせてしまうことを言うのは気が引けるのだが、私にはどうしていいか分からない。何せ、自然の摂理だからね。明日、消えてもおかしくないくらい、年を重ねてしまった」
「分かるの?」
「お嬢さんにも、その時が来たら分かるさ。理屈じゃない、本能みたいなもので分かってしまうんだ。ブルーベリーがとっても美味しいのと同じ、理由なんてなくね」
「それでも、私は寂しいです、おじさん」
「ありがとう。そう言ってくれるお嬢さんは、私にとっても大切なひとだよ」
「何か、何か私にできることはない?」
「もう、十分過ぎるくらい、美味しいブルーベリーサンドとコーヒーを貰ったよ」
 おじさんはトレイを抱える私の腕をぽんぽんと優しく撫でて、ゆっくりと踵を返してしまう。
「おじさん」
 私が呼びかけても、おじさんは振り向かず、のそのそと出口に向かって行く。
「おじさん、その時が来たら教えて下さい。そしたら私、とびきり美味しいブルーベリーをおじさんにプレゼントします」
 咄嗟に頭に浮かんだ言葉をそのまま告げると、おじさんはひげを震わせた。
「ありがとう、お嬢さん、ごちそうさま」
 
 おじさんは、今日もたったひとりでお店で過ごしてたったひとりで出て行ってしまった。

「こんにちは」
 唐突に聞こえて来た声に、私は思わず「きゃっ」と叫んで持っていた包丁を落としてしまった。同時に傍で寝ぼけていたヨハネス二世も驚いて、ちっちゃなおしりを向けてぷるぷる震え始める。
 慌てて振り向くと、お店のドアは開放されていた。まだ鍵、開けてないのに、という気持ちと、あれ、私昨日鍵掛けたっけ、という気持ちでごちゃごちゃになった私が立ち尽くしていると、カウンターの下がかたかたと小さく震えた。
「ここ、ここにいるよ」
「あ、い、いらっしゃい、ませ」
 カウンターからにゅっと現われたのは、ふわふわの灰色の毛並みをした小さな男の子だった。片手に小振りのバゲットを持って、マスカットのような瞳を私に向けている。
「あの、ここではパンさえあればごはんを出してもらえるって聞いたんだけど、本当、ですか?」
「は、はい」
「おねがいします、ぼく、おなかへって、しかたがないんです」
 言う傍からきゅるる、と男の子のお腹の虫が騒ぎ出す。私は慌てて男の子からバゲットを受け取った。
「えっと、二つに割ってサンドイッチにしても、いい?」
「はい」
「何が食べたい?」
「えっと、ジャム。青くて目玉みたいなあまずっぱい、くだものの、ジャムはありますか」
 青くて、目玉みたいなジャム。そう言われて私が視線を向けたのは、まな板の傍に置いていたブルーベリージャムの瓶だった。
 
 男の子はマスカットの瞳を三日月型にして、口一杯にブルーベリージャムサンドを頬張っている。もりもりと力一杯の、いい食べっぷりだ。目の前で洗い物をする私と視線が合うと、にっこりと愛想の良い笑顔を浮かべる。ふわふわ毛並みでしゃんとした背中なのに、何故かその姿に朝一番にやって来る常連客のおじさんを重ねてしまう。とはいえ、さすがにコーヒーは苦すぎると思ったので、代わりにホットミルクを出した。
「おいしい、ぱんやさん、とってもおいしいよ」
「良かった。ブルーベリー好きなの?」
「ぶるー? このいろのジャムのこと?」
「そうだよ。味は知ってるのに、名前は知らないんだ」
「うん。おかあさんがむかしいっぱいつくってくれてすきだったんだけど、わかれてからたべれなくなっちゃったから。もう、たべれないとおもってた、うれしい」
 口の端に付いたジャムをぺろっと舐める男の子に、私は「どうしてわかれちゃったの」と尋ねた。すると、男の子は耳をぱたり、と伏せてミルクを舐めながら言った。
「よくわかんない。いっぱいこわいものがふってきて、かぞくみんなでにげてたんだ。そしたら、いつのまにかみんなばらばらになっちゃってた。おとうさん、おかあさん、おにいちゃん、おねえちゃん、いもうと、いっぱいいたんだ。でも、いまはぼくひとり。だから、ジャムサンドもたべれなくなっちゃったの」
「寂しいね」
「うん。でもね、もうすぐみんなにあえるんだ。いまから、あいにいくの」
 だから急がなくちゃと、こくこくとミルクを飲み干そうとしてむせる彼に、ヨハネス二世が面白そうにきゅきゅ、と笑う。彼はそんなヨハネス二世を撫でると、カウンターから立ち上がった。
「ごちそうさまでした、ぱんやさん。とってもおいしかったよ」
「もう、行くの?」
「うん、まってるから、みんな」
 じゃあね、と駆け出しそうになる彼に、私は慌ててカウンターから飛び出して、その小さな体にブルーベリージャムの瓶を抱えさせた。目を丸くする彼に私はその小さな手の上に自分のそれを重ねた。
「みんなで仲良く、美味しく食べてね。私から、君と君の家族に」

 その日以降、私のお店で、あの奥の窓際の席でチーズサンドやハムサンド、ストロベリーサンドはあっても、ブルーベリージャムサンドが食べられることはない。またブルーベリージャムサンドが頼まれることはあっても、あの席につくひとはいなかった。
 そう意識してしまうと、私はひどく寂しい気持ちに駆られてしまって仕方なかったので、ある朝、思い切って余ったバゲットでジャムサンドを作り、おじさんのかつての指定席に腰掛けた。どんより曇っていて、ジャムサンドの上に光が差し込む事は無い。やっぱりあれは、おじさんがいたからこそ輝いていたのかもしれない。おじさんだけの特別な、ブルーベリージャムサンドだったからこそ。
 だから私がさく、と一口食べてみても、あの美味しいものを作りたいと思う気持ちは沸いて来ない。むしろ、早くお店を開いてお客さんが来てくれないかなあとさえ思ってしまう。おじさんが来ないことは、もう分かっているけれど。
 あの日渡したブルーベリージャムは、相変わらず彼の心を弾ませているだろうか。彼の大好きな家族にも、食べてもらえているだろうか。もし、あの笑顔がどこかできらきらしているのなら、少し私の寂しさも紛れる気がする。
 おじさんが好きだったブルーベリジャムサンドとセットにしていた、ヨハネス二世が吟味したコーヒーを恐る恐る口に運ぶ。うーん、コーヒーは苦手だ。でも、おじさんが言ってたっけ、「お嬢さんにも、これの良さが分かる日がくるさ」って。その日が来た時に、またゆっくり飲んでおじさんの笑顔を思い出せば、いいか。

 ヨハネス二世がぴょこん、とカウンターに顔を出してきゅう、と小さく鳴く。それが私の、朝食の終わりを告げる合図。

とりあえず金曜日。

取りあえず習慣にしようと思って、更新日を金曜に定めてみました。
初めまして、原田と申します。ぼやーんと物書きみたいなことしてます。
ついったーで即興小説書いたりファンタジーな世界に夢を見たりしてます。
とりあえず金曜には何かしら更新されているブログめざして頑張ります!

寒がりのマリア

即興ss三十分、お題:春のクリスマス







「一人でいいって、言ったじゃないですか」
 膨れっつらでお好み焼きを突っつく私に、高嶋せんぱいが肩を竦めて苦笑する。
「一人でいいって、お前そりゃないよ。今日何日だと思ってるの」
「とある十二月の普通の平日です」
「まあ、確かにそれはそうなんだけど。お前可愛くねえな」
「どうせ私は可愛くありません」
 ほっといて下さいよ、とすっかり炭酸の抜けたノンアルコールビールに手を伸ばす私に、せんぱいが「こっちにしなよ」とノンカロリーのコーラをくれた。ノンカロリー。響きはいいけど、別に私カロリーを憎んでる訳じゃないから特に惹かれない。むしろ抱きしめると寒い、がりがりぽっちな体はあまり好きじゃない。
 ペットボトルの蓋を開けると同時に、女の子の黄色い歌声が聞こえて来た。この耳障りなアイドルの歌声の源は、せんぱいのリュックに押し込まれたケータイとみた。ほら、ぶるぶるぶるぶる、炭酸のしゅわしゅわのリズムに合わせて震えているじゃあありませんか、せんぱい。
「せんぱい、ケータイ」
「ほい」
「って、私の渡せって言ったんじゃないんですけど」
「ハルのケータイって可愛いよな。これ、自分でデコったの?」
「私にこんなふりふりレース付きリボンのシールとおばちゃんが買うようなギラギラしたラメでデコる技術、あると思います? 妹ですよ、妹。この前実家に放置してたら、勝手にやられてたんです。それより、ケータイは、せんぱいの方です」
 せんぱいの手でふらふらしていたケータイを奪い取って、顎でしゃくると、せんぱいはへいへいと言いながら自分のケータイを手に取って、なんとそのまま電源をオフにした。あ、そろそろひっくり返さなきゃ。
「ちょっと、せんぱい」
「あー、はいはい、オレがやる、オレが」
「いいですよ、私がやります。元々私一人のパーチーですから」
「今はオレもいるでしょ。大体、ハル不器用だからお好み焼きぐっしゃぐしゃにしちゃうじゃん。はい。大人しくフライ返し貸して」
「お願いします……って違います、そうじゃなくて」
「何、よっと」
 せんぱいの浅黒い手が器用にフライ返しを操った結果、見事綺麗に焼けたお好み焼きがじゅわ~。香ばしい匂いが鼻に突っ込んで来てうっとり……違う違う。
「ケータイ。はるこちゃんでしょ」
「うん、はるこだったね」
「はるこだったね、じゃありません。今すぐ会いに行って下さい。どーせ呼び出されてるんでしょ」
「オレは嫌だって、はるこに言ったんだけどねえ」
 じゅうじゅう、とフライ返しをお好み焼きの表面に押し付けながら、せんぱいはのほほんと言い放つ。せんぱいはいつもこうだ。相手の気持ちなんかお構いなしに、とりあえずのほほんとしてればいっか~みたいなノリで、のほほんとしている。そんなせんぱいの一面が私は大好きで大嫌いなんだけど、はるこは大好き通り越して愛しちゃってる。あれかな、あばたもえくぼ、という奴か。好きな人が暢気で甲斐性なしで自分を何度もこっぴどく振っていても、追いかけちゃうタイプか。うん、まあはるこらしい。はるこなら、きっと浮気なんてしないんだろうなあ、本当に好きな人とお付き合いできたとしたら、だけど。
「はるこが正直ここまで頑張る子だとは私思いませんでした」
「うん、はるこはがんばりやさんだねえ。ハルとは大違いだ」
「どうせ私は飽き症で甲斐性なしでついでに化粧っけもないですよ」
「オレの前では全然いいけど、せめてバイト先では最低限しような」
「してますよー。リップくらい」
「よし、じゃあ今度お兄さんがアイブローを買って上げよう」
「いりません」
「誕生日祝い。今日、間に合わなかったしさ」
 誕生日祝い。うう、嫌な響き。あからさまに顔をしかめると、せんぱいがどうしたのと尋ねてくる。
「あの、私誕生日嫌いなんです」
「何で」
「寒いの嫌いです。私、春に生まれたかった。そうすればケーキもアイスもおいしくいただけますし、それにクリスマスプレゼントと誕生日プレゼントを一緒にされることはないですから」
「そんな理由?」
「誕生日がクリスマスイブじゃないせんぱいには分かりませんよ。私は名前がハルだけに春が好きなんです。温かければ、誕生日とクリスマスをごちゃまぜにされても、少しくらいは許せるレベルです。いっそ、クリスマス、春にするべきですよ」
「何だそりゃ。イエスキリストに春生まれになれって?」
「その方がいいですよ。だって春、温かいし。クリスマスの馬小屋なんて想像しただけで、足の小指が凍ります」
 ぽかぽかとしたあの陽気を思い浮かべるだけで、ほわんと幸せな気持ちになれる。現実はお好み焼きから発生する煙しかないけど。
「ちなみにはるこはクリスマス大好きだって。だからハルはいいなあっていつも言われます」
「だろうね。一ヶ月前からクリスマス話題か告白の話題しかしてこなかったし」
「せんぱいとクリスマス、はるこは過ごしたいんだと思うんです」
「うんうん」
「それでも、はるこはダメなんですか」
「……いい子なのは認めるさ。がんばりやな子は嫌いじゃない。でも、恋愛対象にはどうしてもなり得ないだけ。それだけさ」
 再度せんぱいがお好み焼きをひっくり返す。この間も、はるこは寒空の下、せんぱいを待ち続けているのだろうか。確かせんぱいにプレゼント渡すんだって私に手編みのセーターかなにかを見せていたし、その完成品をぎゅっと小さな手に持って待ってるんだろうなあ。
 せんぱいは、全然はるこに振り向いてくれないのに。
「どうしたの、ハル」
「何か想像したら、ちょっと寒くなっただけです」
「今、はるこが外で待ってるって?」
「はい。しかもそのはるこの「せんぱい」が一人寂しく誕生日を迎えるはずだった私の家に押し掛けてお好み焼きを焼いてるんだと知ったら、さすがに友達やめられちゃうかもなあって」
「いやー、オレはるこに言わないって」
「……せんぱいは、何で私の誕生日、調べたんですか。どうせさちこからでしょ」
「うん、さちこから。ハルはクリスマスイブが誕生日だから、クリスマスデートに誘うと超不機嫌になるんですよーって」
「その通りです、超不機嫌です。だから私、言いましたよね、クリスマスイブはせんぱいと過ごせませんて。それでもせんぱいは、来ました」
「そりゃもちろん、好きだから」
「……好き」
「そうだよ、大好きな君と一緒にクリスマス過ごしたいから。クリスマスは好きな人と過ごす、鉄板でしょ」

じゅっ。
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